8/20
前へ
/30ページ
次へ
そんな苦い考えが過ぎった時だった。 「ねぇ隼人。 今日、何してた?」 ――え? 何故かはわからないが、玲香のその言葉を恐ろしく感じた。 なぜだろう。なんだか全てを見透かされてるような、全てを知った上で、あえて確認しているような…。 そんな感じがした。 「……遊んでたよ、普通に」 「そうなんだ」 「う、うん」 「私も隼人と遊びたいな。久しぶりに」 口元は笑ってるのに、目が笑っていない。 不気味な笑みを浮かべた玲香が目の前に居た。 「そ、そうだな。とりあえず今日はもう遅いし帰れよ。つーかこんな夜に一人で何やってんだよ。危ねぇだろ?」 玲香は美人だ。スタイルもいい。こんな女の子が夜道を歩いていて危なくないわけがない。 「嬉しいな、心配してくれてるの?」 「当たり前だろ?誰だって心配する」 少し叱り気味にそう言うと、玲香はますます嬉しそうに笑みを浮かべた。 今度の笑みは目も笑っている。 「ほら、後ろ乗れよ。送ってくから」 「え……」 「どうした?」 「ううん、なんでもない。本当にいいの?」 「おう。こんなとこに置いていくわけにいかねぇよ」 すると玲香は「ありがとう」と微笑んで自転車の後ろに乗った。 玲香はずっと俺に抱き付いていた。 棗が知ったらどう思うだろう。やっぱり嫌なのかな…悪いことしたな。 帰ったらちゃんと話そう。帰りに玲香に会って、家まで送ったと。だけどなんとも思ってないし、ただ置いていくわけには行かなかっただけだと。 怒るだろうか。 もし玲香が彼女だったなら……ブチ切れだったよな。 「はい、到着」 「わざわざありがとう。ゴメンね、遅くなっちゃったね」 時刻は21時58分。 「いや、ツレと遊んでたら夜中に帰ったりするし平気だよ。だから気にすんな。じゃ、またな」 「うん…またね?」 「おう」 そう挨拶を交わして自転車を漕ぎはじめた瞬間―― 「ねぇ、美味しかった?私が作ったカップケーキ」 ――!! 突然耳元で聞こえた声に思わず振り返ると、玲香は少し遠くに居て、ん?と首を傾げていた。 気のせい……か? なぜだろう。 耳にあの声が鮮明に焼き付いて離れない。 本当に気のせいだったんだろうか。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加