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そんな苦い考えが過ぎった時だった。
「ねぇ隼人。
今日、何してた?」
――え?
何故かはわからないが、玲香のその言葉を恐ろしく感じた。
なぜだろう。なんだか全てを見透かされてるような、全てを知った上で、あえて確認しているような…。
そんな感じがした。
「……遊んでたよ、普通に」
「そうなんだ」
「う、うん」
「私も隼人と遊びたいな。久しぶりに」
口元は笑ってるのに、目が笑っていない。
不気味な笑みを浮かべた玲香が目の前に居た。
「そ、そうだな。とりあえず今日はもう遅いし帰れよ。つーかこんな夜に一人で何やってんだよ。危ねぇだろ?」
玲香は美人だ。スタイルもいい。こんな女の子が夜道を歩いていて危なくないわけがない。
「嬉しいな、心配してくれてるの?」
「当たり前だろ?誰だって心配する」
少し叱り気味にそう言うと、玲香はますます嬉しそうに笑みを浮かべた。
今度の笑みは目も笑っている。
「ほら、後ろ乗れよ。送ってくから」
「え……」
「どうした?」
「ううん、なんでもない。本当にいいの?」
「おう。こんなとこに置いていくわけにいかねぇよ」
すると玲香は「ありがとう」と微笑んで自転車の後ろに乗った。
玲香はずっと俺に抱き付いていた。
棗が知ったらどう思うだろう。やっぱり嫌なのかな…悪いことしたな。
帰ったらちゃんと話そう。帰りに玲香に会って、家まで送ったと。だけどなんとも思ってないし、ただ置いていくわけには行かなかっただけだと。
怒るだろうか。
もし玲香が彼女だったなら……ブチ切れだったよな。
「はい、到着」
「わざわざありがとう。ゴメンね、遅くなっちゃったね」
時刻は21時58分。
「いや、ツレと遊んでたら夜中に帰ったりするし平気だよ。だから気にすんな。じゃ、またな」
「うん…またね?」
「おう」
そう挨拶を交わして自転車を漕ぎはじめた瞬間――
「ねぇ、美味しかった?私が作ったカップケーキ」
――!!
突然耳元で聞こえた声に思わず振り返ると、玲香は少し遠くに居て、ん?と首を傾げていた。
気のせい……か?
なぜだろう。
耳にあの声が鮮明に焼き付いて離れない。
本当に気のせいだったんだろうか。
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