第一群 いわゆる一つの現状説明

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「どっか行けっつったろが!」 「うお!?」  どうやらこっちが必死で打開策を探している内に詰め寄られたらしく、気付けば不良の一人が俺の胸ぐらを掴んでいて、そのまま引っ張っられて我が妹の隣から退かされた。  身体のバランスが崩れ、そしてうっかり離してしまった鞄と共にコンクリの地面へ尻餅をつく。幸いと言うべきか、制服の袖とズボンが多少汚れた程度で身体に傷は無い。  ……しかし。 「さ、あんなへちょいのほっぽって俺達と遊びにぶうぇえ!?」  どうも不良の方はそうはいかなかったようで、彼は奇妙な悲鳴を上げながら吹っ飛んでいった。  見れば顔面に立派な拳型の内出血ができ、歯も何本か折れたようで元持ち主と一緒に宙に舞っている。  そのままある程度滞空した彼は歯と共に地面に落ち、次いで殺虫剤を噴射された死ぬ間際の害虫よろしく身体を小刻みに痙攣(けいれん)させていた。  ……さて、この哀れな被害者を生み出した張本人は。 「……汚い手で、兄さんに、触れるな」  何を隠そう、とても人どころか虫すら叩けないような我が妹である。  彼女は無表情のまま怒気を全身から出し、強い踏み込みから見事な上段正拳を彼に放ったのだ。  ……しかし妹よ、オンナノコがそんなドスをキかせた声を出すもんじゃないぞ、普段の声とのギャップがヒドすぎて恐ろしく恐ろしい。 「ひ……ひいいいぃ!?」  相方の惨劇と阿修羅のごとき我が妹を見た不良は悲鳴を上げながらほうほうの体(てい)で逃げていった。  うむ、素晴らしくモブらしい逃げっぷりだ。俺もいつかはあの極致まで辿り着きたい。 「……兄さん、立てる?」  参考資料にと不良を収めていた視界に小さい手が映る。俺は返事を返すとそれを握り、引っ張ってもらい立ち上がった。  その力は、俺などより余程強い。  それもその筈。  彼女は小学低学年の時から空手・剣道・合気道の道場に通い詰め、そして中学二年の時にその全ての道場の師範を叩きのめし、今も尚毎日欠かさず訓練を続けている世界でも有数の実力者(あまり大会には出てないから実際は分からんが)なのだから。  ついでに言えば頭も良く、この学校の入学テストで何と歴代の五位を取る程の才媛。  両親の才能に関する遺伝子は絶対こいつに全部流れたと、はっきり断言出来る程の、いわゆる天才的美少女。  まあ、こちらには毛程も才能なんざいらんがな。だって目立つし、モブくなれんし。
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