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「……どこか、痛いところは?」
僅か、親しい奴にしか分からん程に眉を寄せ、心配げに尋ねてくる我が妹。同時に服の汚れを払ってくれ、落ちた鞄を拾って差し出してくれる。
俺は鞄を受け取ると。
「大丈夫だ、どこにも無い。
頭は痛いが、まあ、いつもの事だ。
それより……」
「?」
「早くここから離れるぞ。
モブとしてはヤバイぐらいに注目を浴びすぎてる」
「……あ」
そう。先程我が妹が起こしてしまった騒動で下校途中の生徒達の気のいくつかが、こちらに流れてしまっているのだ。
まあ、幸いこの学校では我が妹での騒動はある程度慣れているから記憶には残りにくいだろうが、しかしそれでも主人公達には見付かりやすくなってしまう。
俺は学校から離れる為に早足で歩き始め。
「……待って」
我が妹も、その後ろに付いていった。
さて、あの複数人に目を注がれてしまった学校から歩く事少し。俺と我が妹は本屋があるアーケード街へと至る歩道を歩いていた。
周りには下校中の生徒達がちらほらと歩いていて、しかもその大半は時折こちらに目を向けている。
それもまあ、当然だ。
何といってもこちらには学内で中々に有名になってしまっている(何でも『逸末(いちまつ)人形』なんてあだ名が着いてるらしいぜ)我が妹がいるのだから。
……いや、はっきりと宣告してしまえばむしろ妹のみしか見えてなく、俺の存在には一切気付いていない。
こんなにも近くで歩いているのにな。まるでこちらが透明人間になったかの如き扱いだ。
まあ正直この時だけはモブな努力をしなくて済むから、実に気が楽になる。
さて、その注目を一心に浴びてくれている本人はと言えば。
「……兄さん、ごめんなさい」
周囲の人間など一切映さず、ただこちらに向けて謝り続けていた。見れば心持ち悲しげに目尻を下げ、ついでにさっきから何度も頭も下げている。
あの時の失態を自責し、悔いているのがありありと窺(うかが)えた。
周囲の視線を気にする余裕が無いのか、それとももう学内で浴び続けて慣れてしまったのか。どちらにせよ、最早この程度の視線を気にしない程に強くなったのだろう。
しかし……こう謝り続けられてもこちらとしては困ってしまう。
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