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そもそも俺は別にあの失敗を怒ってなどいない。
結果はどうあれあれは彼女が俺を想ってしてくれた事で、ならばそれに感謝こそすれ、責めるいわれなど一切無い。
大体ああしてなければ沢村に追い付かれていただろうし、有り体に言えば結果オーライの部類に入ると思う。
……まあ、確かに注目を集めた事に不快さは抱いたが、それもカワイイ妹の失敗だ。それこそ微笑ましい、笑って許せるぐらいの可愛いミスである。
俺は未だ謝り続け、少し泣きそうにすらなっている我が妹の頭に、空いている手を乗せる。
「……兄さん?」
彼女はその行為を疑問に思ったのか、謝罪を一旦止めてこちらを不思議そうに見上げた。
並の男ならこれだけでイチコロだろうな、俺は何とも思えんが。
「もう良いって、気にすんな。
俺は全然、気にしてないから」
笑みを浮かべて、撫でる。
彼女は僅かに頬を染めて「兄さん……」と薄く呟いた。
あ、誤解の無いように言っておこう。
我が妹が今頬を染めた理由は照れとか泣きそうになったからとかましてや夕日が差し込んだとかの下らん誤魔化しなどではない。そもそもまだ夕方ですらないし。
もっと単純に、『彼女が俺に惚れている』から……いや、正確にはもっと根深いものがあるのだが、今は恋慕(れんぼ)という表現が妥当だろう。
……ああ、いや、言っておくが自惚(うぬぼ)れなんかじゃない。何せ、俺が中二に上がった春に部屋に上がり込まれて告白されたからな、間違いない。
当然その理由も話してくれたからな、きちんと把握している。
それで、俺はどうしたか、というと……これまた複雑なんだがな、一応こう言っておこう。
『想いは受け入れたが、しかし応えてはいない』と。
……すまないが、今はこれ以上話す気にはなれない。また次の機会を待ってくれると、非常に助かる。
だが、ここまで話を聞いてくれた礼だ。最後に、一つだけ話そう。
『俺は彼女に家族以上の愛情は抱いていないし、また抱くつもりも生涯無いし、そもそも抱こうとしても抱けない』。
これでこの話は終わりだ。いや、つい身内話に花が咲いてしまったな、つまらなかっただろ?
「それよりも、だ。
お前、ちゃんとメールの通りにしたか?」
俺は頭の中の陰鬱を隅に追いやると、我が妹の頭を軽く叩いて尋ねる。
そう。昼のメールは、妹に向けてのものだ。
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