第一群 いわゆる一つの現状説明

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 季節は春、暦は五月、時間は朝。  俺は騒がしい喧騒に包まれている教室で近くにいた級友と他愛ない会話を交わしながら担任の教師が来るのを待っていた。  ちなみに現在の話題は昨日入ったドラマ。内容は何処にでもある恋愛もので、丁度始まったばかりの新作だ。  俺は大して興味を持てないのだが、しかしモブを目指す者として会話になりそうな情報は常にチェックしている。  大体モブというのは主人公達の脇でガヤガヤと話をしてるもんだからな、基本だよ基本。  そのまま話を続ける事数分。 「お……」  廊下からきゃいきゃいとかしましい女子達の声が聞こえて来た。  それは徐々にこちらに近付き、 「みんな、おはよう」  しかし、教室のドアを開け入ってきたのは一人の、様々な女の子達を引き連れた黒髪のイケメン。一緒に入ってきた女子達の声は重なりすぎて聞き取れないのでここでは割愛する。  ……ヤツの名前は沢村俊一(さわむら・しゅんいち)。  眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群……と非の打ちどころがない程の完璧爽やかハーレム系イケメンだ。  ……気付いたか? そう、あいつは間違えようの無いぐらいの『主人公』。要するに最低の人種にして俺が警戒すべき人間、その一人さ。  奴は通り道である俺の席を過ぎると女子に囲まれながら席に付き、次いでなに食わぬ顔で彼女らと話を始める。  そして脇役の親友ポジションの男子が遅れて現れ、テンプレのように女子達に襲い掛かり、撃退され。同時にチャイムが鳴り響き、担任が教室にやってくる。  ちなみにコレ、毎日起きている恒例のやり取りだ。まあ、こちらには関係無いので流させてもらうとしよう。  俺は級友との会話を打ち切ると気をヤツから外し、正面を向いてホームルームに集中し始めた。  さて、今日もモブくなれるよう努力するか……  時は過ぎ、昼休み。  俺は今までの授業で固まった身体を一度ぐっと伸ばすと鞄から弁当を取り出し、次いで頭の中で沢村の顔と名前を思い浮かべ。 (第二ワード・現在情報……) 「――検索、開始(サーチ・オン)……なんちゃってな」  fa〇eの〇ーチャーの言葉をもじり、呟いた。  いや、別にこんな風に言わなくても「検索」とそれっぽい言葉を思えば出来るのだが……ま、気分の問題だ。 「ぐっ……」  頭痛。同時に、頭の中に広がっていく情報。
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