第一群 いわゆる一つの現状説明

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 そうなったらもう最後、例えその場で断っても伊丹に目を付けられ、なし崩し的に入ってしまうだろう。  が……まあ、この手のパターンなら何回か陥りかけた経験がある。初手のフラグを潰すのは、容易(たやす)い。  俺はさりげなく携帯を、周りに見えないように取り出し、机の中に開いて置いておき、ある番号を表示して通話ボタンに指を置き、押す。 「良かったらお弁当一緒に(ーー♪」  すると机の上に置いていた普段使っている方の携帯が、ヤツの言葉に被せるように流行の歌を流した。  こんな時の為に安い携帯をいくつか常備している。  下手なプランとかパックとか入らなきゃ一つ二、三千で扱えるからな……いや、便利な世の中になったもんだよ、ホント。 「あ、」 「おっとすまん、電話が来たみたいだ。 ちょっと、話してくる」  俺はなるべく自然を装いながら携帯を取り、机の中にあるそれをこっそり回収すると教室の隅に向かい、そこで着信を取って友人と話しているように装いながら、伊丹を見る。  奴は最初の声掛けが挫かれたせいか顔を俯かせて黙り込んでいた。  よしよし……ああいうヘタレ系はコミュ力がほぼ皆無だからな、一度勇気を出して掛けた言葉が折られれば中々復帰出来ない。それが分かっているのか勝ち気系も顔に手をやり溜め息を溢している。  この後の流れは…… 「何だ? なんか用事か?」 「い、いえ、あの、……なんでもないです」  伊丹は薄く落ち込みながら、勝ち気の元へと戻っていった。  ま、こうなるよな。あの性格で他人同然の輩にもう一度言おう、などと気張れる筈も無い。  俺はあの二人が昼食の為に教室から出ていくのを見計らい、演技を止め、元の席に戻ってなに食わぬ顔で四言。 「悪いな、待たせた。 あれ、さっきの奴は?」  級友達はさあ、と首を傾げ、しかし特に興味も無かったのかすぐに言葉を振ってきた。  それに応じ、会話を始める。  回避成功……ちょろいな。  悪いがこちとら年が一桁の時からフラグを立てないよう立ち回り、立ちかかってもそのほぼ全てを除去して来たんだ。貴様の育ちきっていない主人公補正では歯牙にすらかからんよ。  俺は心の中でドヤ顔をしながら 「レージ、なににやついてんだ、キモいぞ」  おっと顔に出てしまったようだ。 級友に適当な言い訳をすると残っていた弁当をパクつく。 その後は何事も無く、いつものように時が過ぎていった。
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