それはまだ序の口で

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彼が一言発するそれだけで新撰組副長土方歳三の機嫌をすこぶる損ね給うに十分なのだ。 決して鬼副長の沸点が低い訳ではないことは後々わかることであるし、それは土方歳三の名誉のためにも明るくしておきたいところである。 沖田総司の巡回は、勝手気儘なことで隊内でひどく有名だった。 というのも彼自身がそれを京守護のための大切な仕事と認識していないからで、彼にとっては巡回と散歩に異義がなかったのだ。 だから腰に剣は据えつつもその足取りは呑気極まりなく、食べ物屋や小物屋で品定めなんてのはしばしばのことであったし、気分がのらなければそもそも外に出ないことすらあった。 逆に言えば気分がのれば誰が止めようと外に出るのである。 沖田総司のもう一つの特徴は人より身体が弱め、という本人にとって何より屈辱的な事実であった。 それに屈するのが大嫌いな彼は、幼少の砌から彼を知り尽くす土方歳三の止めるのも無視して巡回にでることがある。 止められるからむしろ逆らいたくなるといっても間違いではない。 ここに沖田総司と土方歳三の関係性が現れてくるのは至って普通であろう。 「ひねくれ小僧の弟分に手を焼かれつつもとかく面倒を見たがる土方歳三」を小馬鹿にしつつも構われるのが決して嫌ではない天の邪鬼な沖田総司。 前置きが長くなったが、この物語はそんな沖田青年が風邪を押しつつ一人散歩…失敬、巡回をしているところから始まる。  
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