それはまだ序の口で

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秋も深まる紅葉の色が空を覆うころ、例によって季節の変わり風に弱い沖田は不服ながら鼻風邪に悩まされ始めていた。 埃っぽい町中を藍色の普段着でだらだら歩く姿を、誰が巡回中の新撰組隊士と気付こうか。 本来ならば沖田と数名で回る筈を、出掛けに土方に風邪を指摘された沖田が半刻軟禁されたために、永倉が代わりになった正規部隊が既に巡回をしているのだが、反抗的な沖田が監視の網をかいくぐってでてきたのであるから、実は彼は本当は巡回中ではない。 とにかく土方の言うことを聞きたくなくて飛び出してきただけなのだ。 それだとあまりに子供じみているため、無理矢理巡回中だと言い張っているといえよう。 別にそう言った訳ではないが、聞けばそう答えるだろう。 それは彼の性格から言えば察するに容易だ。 しかし本当は当てすらないので、沖田はさてはてこれからどうしようかなとぼんやり考えだしていた。 行きつけの定食屋にでも顔を出そうかと思ったが、そんな時間でもない。 むしろ夕刻で酒の一杯でもやれる時間だ。 ―…酒かっ食らって帰ったら怒るだろうなー、歳さん。 本気でキレる鬼副長を見る趣味はない。 沖田は涼しげな目元をつまらなさそうにすると、くたびれた一件の暖簾を潜った。 「……はぁ。」 「やあ。」 建物の奥の生薬の匂いが染み渡る空間で、小さくなって書き物をしている人間に片手をあげて挨拶をする。 勿論返事は帰ってこない。 沖田は無遠慮に座り込むと、その人間の頭を鷲掴みにした。
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