それはまだ序の口で

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「人の顔見て嫌な顔した挙句に挨拶を無視?全く、加藤につける薬はないねぇ。」 「てめーにつける薬もねぇよ。離せっつの!」 「ごめん、つい力が入っちゃった。あまりに憎らしいから。」 沖田はパッと手を離すと、にっこり笑ってみせた。 加藤と呼ばれた男はそっと筆を置くと、おもむろに立ち上がった。 「ん?なに?」 「ここにお前がいると何破壊されるかわからん。」 「えっ壊したことなんかないのに。」 言って立ち上がろうとした途端、床についた右手が何かを潰した。 ―…この感触、まごうことなく懐紙……! ということはその中には何かしら粉薬か乾燥させただけの植物が入っていた訳で、沖田の経験からいえば恐らく後者だ。 「…破壊、したことないって?」 陰気な格好の加藤から負の粒子が噴出される。 その眼力に沖田はへらりと笑うしかなかった。 「全く不愉快な奴だよ、お前はさ。」 場所を移して別の一室で茶を飲む二人だったが、生薬臭さはてんで変わりない。 そもそもここは町医者加藤雪之丞が営む小さな薬問屋だ。 加藤雪之丞の本家はすぐ側にある立派な診療所だった。 つまり加藤雪之丞はここで本家に卸す薬の調合を日夜行っているのだ。 そこに気軽に訪れてくるのが沖田総司であり、加藤は沖田にとって京でのお友達第一号であった。 「そんな言い方しないでよう。」 「ほら、それが既にふざけてる。」 「参ったな。」
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