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事務所のドアを開けて廊下に出た。
タイル張りの床は所々捲れていて、それ以外は何も置かれていない。壁には破れた紙片や染みなどが広告ポスターを貼っていた跡として残っている。いつ見ても薄汚い廊下だ。
事務所を出て、右の奥には何もなく、左の奥には階段がある。
「……ん?」
ふと階段の側に置いてあるものが目についた。階段に置くものとしては不釣り合いな、大きな黒いキャリーバッグが倒した形で置いてあった。
「……あれだな」
近づいてものを確かめる。
黒と言えば高級って感じだがそういうわけではなさそうで、よく見ればかなりボロボロで凹凸がたくさんあった。
随分存分な扱い方をしてたんだなぁ。
大きさはかなりでかいもので、子供や小柄な女性なら入りそうな大きさだった。
取っ手と車輪が付いているので持ち運びしやすい仕様だがそれでもサイズがサイズなので一苦労はするだろう。
周りに人がいる気配もないので事務所に運ぶことにした。
とりあえずはこのままだと車輪が意味をなさないので、取っ手を持って縦に置いた。
思ったより重い。マジで人でも入ってそうだった。
ゴロゴロと音を出しながらバッグを引く。こういうキャリーバッグはコロコロとかカラカラとか言われたりするが、これに限ってはゴロゴロなんだろう。
しかしこれは楽だなぁ。いつか旅行に行くときの荷物はキャリーバッグにしよう――なんて思っていた時のことだった。
車輪が一つが捲れたタイルに引っ掛かって止まってしまった。勢いあまってバランスが崩れる。
「あっ――」
ガシャンという音を立てて横転するバッグ。
元がボロだったためか、拍子で留め具が壊れたのか、バッグの中身が露になった。
ははは……マジかよ……
「何? まさか落としたとか言わな――」
事務所から出てきた昌が言いかけて話すのを止めた。その顔は呆気にとられたというより、納得したという顔だった。
「やっぱりロクな仕事じゃなかったね」
と、昌はニヤリと笑う。
ホントにロクじゃない。
ボロボロのキャリーバッグの中にはスヤスヤと眠る、制服を着た少女が入っていた。
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