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「……さすがに行列に並ぶのは嫌だからな?」
「自分の方が嫌だよ」
キッパリと断言。別の物にするということはなく並ぶことを前提に。
「ていうか食べたいなら昌が買って来いよ?」
「じゃあこの子を誰が監視しておくのさ?」
と、親指を立てて一条を指した。ソファーに座りながら鼻唄まじりにクリスピードーナツを楽しみにしている。
「そんなの、俺が見るに決まってるだろ?」
「えぇ? 洋平君がぁ?」
心底不安気に昌は驚いた。
心配があり、信頼がなかった。
「なんだよ? 監視くらいできるっての……」
年下の女の子一人、取り逃がすほどドジじゃない。
「いや、洋平君のことだから、女の子と二人きりにさせると危なっかしいよね?」
と、ニコリとも笑わずに昌は言った。
「……わかったよ。行けばいいんだろ行けば……」
「うん、じゃあ買って来てね。一箱」
クリスピードーナツの一箱は12個入りで、単純計算だと一人あたり4つ食べられる。
しかし、食べ物においてのみ、昌にそんな計算は無意味と言える。
というのも、昌は俗に言う『痩せの大食い』であり、とにかく食事量が半端ない。
よくある大食いチャレンジをはしごして回る程の昌の食い様を見て、人は昌を『ブラックホール』と呼んだ。
腹黒で。
腹黒穴である。
とにかく昌の腹の内には良いことがない。
「ちなみに昌は何個食べるんだ?」
「10個だけど?」
即答で、躊躇わずに、至極当たり前のように言った。まぁ予想済みだ。
「あ、君達二人は1個じゃ足りない? じゃあ二箱にする?」
「なんで倍になるんだよ!? 別で二つ買うか昌が食べる量を減らすかすればいいだろ!」
「前者はともかく後者はあり得ないね」
「さいですか……じゃあ買って来るわ」
「よろしくねー」
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