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初めの方で“天王寺”と一くくりに言ったが俗に言われる天王寺と、地名としてのそれとは区分が違うのを説明しておこう。
と、言うのも通称の天王寺とは天王寺駅周辺のことを示し、それ故に天王寺駅に隣り合って存在する阿部野橋駅を含む阿部野区も天王寺と呼ぶことがある。
天王寺の周辺の商業施設としてあげられるのは天王寺区のものより、阿部野区のものの方が多い。
これから行くショッピングモール、あべのキューズモールも言わずもがな、である。
ちなみにうちの事務所は列記とした天王寺に所在。
あべのキューズモールはできて一年も経たない施設で、県下最大級の規模を謳われている。若者向けのテナントが多いが、それでも広くてテナント数も多く、また阿部野橋駅から歩いて5分もかからないので連日様々な人に利用されている。
さてそんな説明をしているうちに目的のあべのキューズモールに到着。
お目当てのクリスピードーナツは二階の屋外テナントにあるのでエスカレーターを使って二階に上がった。
「……飲み物でも先に買えばよかったかな」
思わず独り言を呟いてしまった。というのもそのクリスピードーナツを買うための行列が一往復半ほどの蛇行をしていたのだ。軽く五十人ほどだろう。
頼まれた以上買うしかないので並ぶのだが、いかんせん、この女子か女性か若いカップルしかいないこの列に男子一人で並ぶのは少し戸惑った。
そんなことはさておき、ふと前に並ぶ二人の女の子が目についた。一条と同じ聖ヶ丘の制服を着ていたのだ。
確か聖ヶ丘は第2第4土曜は昼まで授業があった気がするし、おそらくそのまま寄り道したのだろう。
最寄り駅から電車で20分もかからない距離だしな。
「ねぇ、そういえばA組の一条さん、誘拐されたらしいよ?」
と、会話を始められ思わずむせてしまった。しかし女の子達はそんな俺に見向きもせずに会話を続けた。
あ、危ねぇ……
「へぇ、そうなんだ。確かにお金持ちだもんね。一条さん」
「そうそう。まぁ、あの子ちょっと変わってるし、案外状況を楽しんでそうだけど……」
「あぁーわかるわかるー」
……同じ学校の子が誘拐されたってのに呑気なもんだな。まぁ誘拐された本人も余裕はあったみたいだし、外れてはないんだけども。
むしろあの余裕はどこから出るんだろうか?
その後も聞き耳を立てて話を聞いていたが、特に役にたつような情報は得られなかった。
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