9/10
前へ
/62ページ
次へ
なんだかんだで30分以上かかってようやく目的の物を購入。あとは持って帰るだけの簡単なお仕事だ。 行きと同じ道を歩いて帰る。 あべのキューズモールから天王寺駅へと続く地下道があり、そっちを使った方が早いのだが、俺はあえて、というよりできれば地上の歩道橋を使う。 というのも俺は地下が嫌いからだ。 地震とかがあったら生き埋めになりそうで怖いのだ。もちろん、耐震構造はばっちりなんだろうけども、不安で仕方ないのだ。 そんなこんなで阿部野橋駅と天王寺駅を結ぶ歩道橋を歩いていると、手すりにもたれて堂々とタバコを吸う中年のおっさんがいた。 「……路上喫煙はマナー違反ですよ? 渡部(わたべ)さん」 「ん? なんだ、屋久島か。んじゃいいや」 「よくないですよ! 堂々と吸わないでくださいよ!」 「わかったわかった。んじゃこの一本だけでも吸わせてくれ」 「……わかりましたよ」 こんなだらしないテキトーな中年のおっさんこと渡部さんだが、昔から何度も世話になったので頭が上がらない人物でもある。 「ところで渡部さんはこんなとこで何してるんですか?」 「見たらわかるだろ? 聞き込みだよ聞き込み」 「ははは。そうですか」 全くそうは見えなかった。しかし、どうやら聞き込み捜査をしているらしい。 するとタイミングよく部下の青木さんが天王寺駅方面の階段を上ってやって来た。 「警部、今のところめぼしい情報は得られませんでした」 「あぁそう? じゃあ向こうの方もよろしく頼むな」 と、渡部さん阿部野橋駅方面を親指でさした。 相変わらず人使いの荒い人だなぁ。 しかし青木さんは文句一つ言わず敬礼をするとそのまま阿部野橋駅へと早足で歩いていった。 「ったく……休日なのに働かされるってのは嫌なもんだな」 そう一服しながら言われたので俺は苦笑いしか返せなかった。 「んじゃあ一応お前さんにも訊いておくが」 と、渡部さんは胸ポケットから写真を取り出した。一条の写真である。 「屋久島、この子のこと知らないか?」 「……知りませんね」 ここは嘘をついておくことにした。 渡部さんは信じてくれても、他の、特に偉いさんには信じてもらえそうになかったからだ。 現状、被害者自身が信じていないわけだし。 「ん、そうか。ならいいけど」 そう言って渡部さんは胸ポケットに写真を再び仕舞った。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加