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なんだかんだで事務所を出てから一時間近く経っている気がしたが、ようやく事務所に帰ることが出来た。
昌のお腹が減ってから一時間か……確実に怒るだろうな。
俺は数々の罵倒を覚悟しながら事務所のドアを重々しく開けた。
「……遅くなってすまん」
と、言ってみたものの、どうやらその言葉は聞こえなかったようだ。
「――やはり、何の取り柄もないダメ主人公が転生して超ハイスペックチートキャラになって世界を救う的な展開は飽和していると思うんだ」
「確かにそうだね。流行ってるから僕も書いてみたよ的な手軽さで書かれているよね」
「そうそう。しかもそういう小説に限って“w”俗に言われる“草”を多用するのが多いがあれはいただけない」
「うん。気が合うね。自分もあれは絵文字や顔文字と同じく、小説に相応しくない表現だと思うよ」
俺が買い物に行っている間に昌と一条は何故か携帯小説について語り合っていた。
生き生きと。
勢いよく。
意気投合していた。
「さらによくあるのが“オタクの俺スゲーwww”と言いたげにアニメ漫画ゲームネタを多用し――」
と、一条が言いかけたところでようやく俺の存在に気付いてくれた。
「遅いぞ変態!」
「誰が変態だ誰が!?」
「お前に決まっているだろう!」
ビシィッ! と口に出して指さされた。
なんというか、うざい。
「おい昌、こいつに何を吹き込んだんだ?」
「何って……かつて洋平君が行ったブルマ狩りについてだよ!」
ビシィッ! ってお前まで口に出して言うんじゃねぇよ。
二人揃って、うざい。
「そもそも、そんなことやってねぇっての。まずブルマじゃなかったし」
「そんな謙遜しなくても」
「謙遜じゃねぇ!」
「洋平君、学生時代は影で“変態が服を着て歩いている”と言われるほどの変態だったじゃないか?」
「その喩えだと露出という変態性が一つ減るのではというツッコミは置いといて、そんな噂が流れてたのか!?」
「なるほど、そういう考え方があったか。しくったなぁ」
「昌か!? 噂を流したのは昌なのか!?」
「まぁ嘘なんだけどね」
「なんだよ嘘かよ」
「ブルマ狩りのくだりは」
「噂の方は!?」
「さぁ、そんなことよりドーナツを食べようよ」
「スルーするなぁ!!」
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