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「これがクリスピードーナツか。なかなか美味しいものだな」 一条が口いっぱいにドーナツを頬張りながら言った。食いながら喋るとは行儀が悪い。 一方で昌は礼儀正しく、黙々と、モグモグと、ドーナツを消化していく。 「満足いったかよ、お嬢様?」 「あぁ満足した!」 満面の笑みで一条が答える。口元にドーナツのカスがついてはしたない。 こいつはホントにお嬢様なのだろうか? 見た目も中身も全然お嬢様じゃない。 「口元にドーナツがついてるぞ?」 「な、何!? しまった麗ちゃん一生の不覚!」 そう言って目を覆って天井を仰いだ。 不覚ならば目を覆うな。口を覆え。いや、むしろ早く取れ。 「これで……取れたか?」 と、舌を伸ばして取ろうとする一条。 「いや、反対だ」 「むぅ……」 言われるがままに一条は反対側を舐め取った。 「これで取れたか?」 「いいや、鼻の頭にもついてるぜ?」 からかってみた。もちろん嘘である。 「な、鼻にだと?」 半信半疑のまま一条は鼻の頭を舐めようとした。もちろん届くわけがなく、舌をプルプルと震わせている。 予想通りだが、そこは流石に手で取れよ。 そして舌は届かないとわかったのか、最終的に手を使って鼻の頭に触れた。 「これでいいか?」 一条が少し顔を赤くして訊いてきた。 うむ。これはからかいがいがあるな。 かわいいし。 「あぁ、あとあごの先にもついてるぞ?」 「あ、あごぉ?」 信じられない様子だったが一条はすぐさま舌をあごの先に伸ばした。もちろん届かない。 この子はバカなのだろうか? 知らないおじさんにお菓子を与えられたらついていくレベル。 ともかく、そんな一条に不覚にも笑ってしまった。 洋平一生の不覚、だった。
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