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「ところで洋平君、なんであんなにも遅かったのかな?」
今までひたすらドーナツに夢中になっていた昌は口を開いた。(今までも口は開いてはいたのだがここは比喩的な意味で)
「まぁ案の定並んでたのと、渡部さんと青木さんに会ったから少し話してたんだ」
まぁ、青木さんとは話してないが。
「へぇ。仕事で?」
「あぁそうだな。一条のことでだよ」
そう言うと昌の顔つきが険しくなった。
「で、何て言ったの? まぁ馬鹿正直に話してはないだろうけど」
「当たり前だっつうの。ちゃんと誤魔化したよ。特に突っ込まれなかったし」
「ならいいけどさ。あの人は変に鋭いからなぁ」
と、昌が腕を組んでソファーにもたれる。
「そして青木さんは相変わらず使いっ走りにされてたと?」
「まぁその通りだな」
俺の答えを聞いて昌は口角を緩ませて鼻で笑った。
「やっぱりね。渡部さんは人使いが荒いからなぁ。もう少し優しくしてあげてもいいのにね」
「あぁそうだな」
そして「昌もな」とツッコミを入れるのは止めておこう。
にしても二人共、人のふり見て我がふり直せよ。
昌はさらにドーナツに手を出した。箱に入った分はすでに食べ終わっていてさらに別のドーナツを――ん? あれ? おかしいぞ?
12個入りの箱+別で2個。俺と一条が2個ずつのはずだから、昌が箱以外のドーナツに手を出すのは勘定が合わない。
「洋平君。食べるの遅いね」
昌はそう言って口いっぱいにドーナツを頬張った。
「俺、まだ一つしか食べてないんだけど?」
俺が問い詰めると昌は堂々と胸を張って口の中のドーナツを飲み込んだ。
そして昌は口を開く。
ドーナツをさらに頬張る。
黙々とドーナツを食べる。
昌はドーナツを食べるのを止めない。
「せめて頂戴の一言ぐらい言いやがれ!」
謝る様子も悪びれる様子もないのが昌らしい。
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