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結局昼ご飯としてドーナツ一つしか食べられないまま、お昼時が過ぎていった。
誘拐犯の誤解を受けるという非常事態故に仕事なんてできるわけがなく、待合室にてただただテレビを見ているだけしかできなかった。
少し時間が経ったからか、一部の局を除いて、普通の番組が再開されていた。まぁ俺達はワイドショーを見て、少しでも情報収集をしているわけだが。
「……誘拐犯からの身代金の要求は無し、か」
ソファーにもたれている昌がリモコン片手に呟いた。
そう、どのワイドショーにおいても、誘拐をする主な理由の身代金の要求はまだ無いと報道されていた。
誘拐だとわかった理由については昼頃にただ誘拐した旨を伝える電話があったらしい。
機械で声を変えて。
「身代金も何も、肝心の人質が手元にいないからなぁ」
その肝心の人質こと一条は前のめりで食い入るようにテレビを見ていた。
「お父さん……」
ポツリと一条が呟く。その顔はさっきまでの明るい一条のものではなかった。
寂しそうに、呟いた。
そりゃいくらなんでも得体の知れない人間に誘拐され軟禁状態にさせられれば、寂しくもなる。
誤解されているからこそ、余計に良心に響く。
出来れば早く帰してあげたいものだ。
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