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「この誘拐事件、疑問が多過ぎる。犯人の狙いが全くわからないね」 昌が呆れるように溜め息をつきながら言った。そしてそのまま俺の返事を待たずに口を開く。 「誘拐をする人間と、運ぶ人間、そしてそれを受けとる人間。少なくとも自分達のような赤の他人を間に入れたあまりにもバレたり裏切られるリスクが高い誘拐をする意味。そしてその上で集合場所を人気のある所にする等リスクを高める意味。ホントに意味不明だよ」 「そうだな。何の得もないよな」 「まぁ、それは約束の時間になればわかるのかな?」 ニヤリと黒く笑う昌。 「おいおい……肝心のキャリーバッグがなけりゃ相手に気付かれないだろ?」 そう言って再び部屋のスミに置かれたキャリーバッグに目を向ける。そこにはやはり壊れたキャリーバッグがあった。 「じゃあ似たようなやつを買ってくればいいじゃん?」 「それはごもっともだが、傷だけは再現できないぞ?」 元からボロボロで凹凸もあったのでそれを再現するのは無理だろう。 すると昌はやれやれと首を振った。 「……別に完璧に再現しなくてもいいでしょ? まぁ、写真とかで実物を把握されているならともかく『黒のボロボロのキャリーバッグ』を持ってりゃ近付いてくれるよ」 ……確かにそれもそうだ。 黒のボロボロのキャリーバッグだなんてなかなか具体的な物だし、ボロボロ具合まで具体的に言う必要もないだろう。 ボロボロは抽象的で十分だ。 「わかったよ。買ってくりゃいいんだろ?」 「そうそう。じゃあ今からよろしく」 そう言って昌はサイフを鞄から取り出すと万札を数枚、数えずに俺に渡した。 「んじゃ行ってくるわ」 「いってら~」
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