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事務所に帰ると昌は本を読んでいて、一条はテレビのワイドショーを見ていた。 「ただいま」 「あ、おかえり洋平君」 昌は本を閉じて素っ気なく返事をした。一条はこちらを少し見たが何も言うことなく再びテレビに目を向けた。 随分大人しくなったなぁと思ったが、まぁ誘拐されたことを考えてやるとわからなくもない。 「今度は早く買ってこれたね。偉い偉い」 「子供のお使いじゃねぇんだからさ……あ、そういやさっき森野に会ったぜ」 「へぇ~襲われなかった?」 「は?」 「ん、ゴメン噛んだ。襲わなかった?」 「お前なぁ……」 そういうネタでいちいち俺を責めるんじゃねぇよ。 あからさまに嫌そうな顔をした俺に満足したのか昌はニヤリと笑った。 「それで、何か言ってた?」 「いや、普通に昌は元気かって訊かれたくらいかな? あとは……また三人で会おうって話はしたな」 「……会おうって話は向こうからしたの?」 不思議そうに昌が首を傾げて訊く。 「……いや、俺からだけど?」 「ん、そうかい」 昌は納得した風に淡白に返事をした。 何でそんなことを訊くのかはわからなかったが、まぁたいしたことじゃなさそうなので訊くのは止めておいた。 そんなことより、だ。 「そうそう。キャリーバッグはこれで充分だよな?」 と、引いていたキャリーバッグを一度持ち上げて前に置いた。それを昌をじっくりと眺める。 「……うん。いけるんじゃない? あとは傷を付けるだけかな」 「そうだな。テキトーに蹴るか?」 「壊さない程度に――」 と、昌が言いかけて、途中でふと別の方を向いた。 一条の方である。 「それでまた私を運ぶのか?」
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