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休日である今日は、珍しく仕事が入っていなかった。もちろん休日だろうが祝日だろうが関係なく営業しているため、今は事務所で待機をしている状態だ。
それぞれの事務机に座って、俺は漫画を、昌は本(カバーがかかっていて中身がわからない)を読んでいる。
「そう言えばよく自己紹介から始まる一人称の携帯小説って多いよね」
昌が頬杖をつきながら、ポツリと呟いた。
「……なんだよいきなり」
「しかもさ、一人称の地の文って言わば、頭の中、心の内でしょ? なのにさ、通学中の主人公が『僕の名前は〇〇。ごく普通の高校生だ』だなんて自語りしちゃってさ。滑稽だと思わない?」
……どうやら俺には話を聞く以外の選択肢はないらしい。
「別に説明しなきゃいけない立場なんだからいいんじゃないのか? 許してやれよ?」
「にしても、もうちょっとうまい具合に説明できると思うんだけどねぇ? 名無しの権兵衛君?」
「俺には屋久島 洋平(やくしま ようへい)という名前があるわ!」
むしろ、このやり取りの方がわざとらしく滑稽じゃないのかというツッコミはさておき……
「そんなことより、今日は仕事無いのか?」
「無いけど……」
と、俺の問いかけに対して意外そうな、さらに言えば、気味が悪いと言いたげな表情で昌がこちらを見て来た。
「なんだよその顔は」
「いや、高校時代は自主的に勉強しなかった洋平君が、まさか仕事熱心になろうとは……気持ちが悪いなぁってさ」
「普通そこは関心するとこだろうが」
「まぁ普通じゃないからね」
ニシシと歯を見せて笑う昌。
「まぁ便利屋なんて、普通じゃない職業は頻繁に仕事が無いのが普通で――」
と昌が言いかけた途端だった。
昌の携帯電話が鳴り響いた。昌は仕事用とプライベート用の二つ持っているが、今回は仕事用である。
「はい、お電話ありがとうございます。こちら便利屋 野中寺でございます」
昌が電話にでると、そのまま待合室の方へ去っていった。
また依頼が来たんだろうな。
仕方なく待つことにした。
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