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「一つ。電話の相手がボイスチェンジャーか何かを使って声色を変えていたこと」 「それは素性を知られたくないからじゃないのか?」 そう。便利屋 野中寺は“汚れた仕事”を請け負うこともあるため、電話だけのやり取りで、立ち会いを避ける人もいるし、そういったボイスチェンジャーで声を隠す人も珍しくはない。 この依頼もそうなんだろう。 しかし、昌はやれやれといった様子でため息をついた。どうやら的外れらしい。 「洋平君、人の話を聞いてた? 依頼人は一時間後にここに来るんだよ? 荷物を預けにとか言ってたけど、わざわざ会って話をするのになんで声色を変える必要があるのさ?」 「た、確かに……」 素性を隠すならむしろ、どこか別の場所に取りに行かせるよなぁ……まぁ、物によってはあまり手放しておきたくないだろうけど。 「会っても筆談や無言を突き通すかもしれないけど、どちらにせよろくな人じゃないし」 「その可能性は低いだろうな」 「ちなみに自分は事務所の前に荷物だけ置いていくとふんでるけどね」 見透かした様子で椅子にもたれて余裕を見せる昌。 「んじゃあ待ち伏せでもしておくか?」 「はぁ? それじゃあ逃げられるじゃん? 」 ……それもそうだ。 事務所前の廊下には人が隠れられるような場所はないので、待ち伏せすればモロにバレてしまう。 我ながら考え無しに言ってしまったなぁ。 猛省してる最中にさらに昌はバカなの? 死ぬの? と追撃してきた。 はい。そうですね。すみませんでした。
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