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「二つ。配達先、待ち合わせの場所がおかしい」
待ち合わせ? となると、個人的な取引か何かか?
「今日の夕方、18時に天王寺駅改札口前で荷物を持って待機をするように言われたんだけど、これもおかしな話だよ」
「……さすがに俺でもわかったわ」
天王寺駅は環状線が通っており、地方への路線もある。さらには天王寺駅付近にはステーションプラザやデパート、百貨店、新しくできた大型ショッピングモールなどがあるため、駅前の通行量というのはとても多い。
加えて、夕方というのも、やはり帰宅する人達や買い物をする人達で賑わう時間帯だ。
そこで待ち合わせは、人目に付きすぎる。見てくださいと言っているようなものだ。
「この依頼人は隠したいのかそうでないのかが読めないね。そこに意図があるのか、もしくは馬鹿か……」
と、昌の目線はやはり俺の方を向いていた。俺は馬鹿じゃねぇよ。
「最後に報酬金額。いくらだと思う?」
「……普通なら五千。それでも高いくらいだけど……」
普段は簡単な仕事なら五千円で、複雑な仕事になるとそこから値上げするといった形を取っている。
しかし、たまに依頼人が報酬を提示する時がある。その時は割安なら値上げ、割高である程度ならそのまま貰うことにしている。
「でも、そんな変わったやつなら一万くらい出してきそうだな……」
そもそも手間も苦労もなさそうだし金を取るのも億劫なくらいだ。
すると、俺の回答を聞いて昌はニヤリと笑った。どうやらハズレのようだ。
そして昌は両手を顔の横に挙げて、ゆっくりと開いた。
「正解はその十倍」
「十万もか!?」
いやいや、いくらなんでも怪しすぎるだろ……
「もちろん高過ぎるからもっと安い料金を提案したけど、『気持ちだからそれでいい』って一点張り。仕方なくそういうことになったけどさ、明らかにおかしいよね?」
「そうだな。それなのに依頼は受けたんだな」
「そうだよ? 悪い?」
……開き直りやがった。
「まぁいいけどよ……」
「じゃあそういうことで。洋平君、よろしくね」
まるで乙女かのようなウインクをかます昌。
はぁ……やっかいごとは勘弁してくれよ。
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