7/8
前へ
/62ページ
次へ
特にやることがなく、ひたすら事務所で暇をしていた俺達だったが、時間が過ぎるのは早いもんで、なんだかんだで時刻は12時を回ろうとしていた。 「もうそろそろ時間だねぇ」 昌が机に突っ伏して締まりのないだらけきった声を出す。 暇すぎてしびれを切らしたのか、まるでクラゲのようだ。整ったビジュアルが台無しだ。 普段ならもう少しキッチリしているが、来ないとふんでいるのでこの通りなんだろう。 この調子でいられると気が滅入るので仕事の話を切り出してみる。 「そういえば、今回は何を運ぶんだ?」 「バッグ。大きめのキャリーバッグって言ってたよ。中身までは訊いてないけど」 そう言って昌は机から起き上がり、座ったまま軽く伸びをした。 「そうか。まぁ配達先が配達先だし、裏ものは入ってないだろうな」 主に、薬とか銃とか。 「さぁどうだか? そういうテロかもしれないよ?」 「爆弾ってか? おいおい、そんな縁起でもないこと言うなよ」 と笑ってみせる。 昌は笑っているが、口元だけの話で、目は笑っていなかった。 「……ちなみに運ぶのは俺の仕事だよな?」 「うん。当たり前じゃん」 親指を立てて爽やかな笑顔が作る昌。 輝かしいけど黒々しい。別名“Gスマイル” 「お前はホントに楽でいいよな!」 「だって力仕事は洋平君の担当じゃん?」 「ていうかほとんどの依頼を俺がやってるっての!」 「若者は働いてなんぼだよ?」 「同世代!!」 行き場のない拳――ではなくツッコミを机にぶつけるが、ただバンッと鳴るだけで、肝心の昌は知らんぷりだった。 痛ぇ。 「あ、もう12時過ぎてる」 「え?」 昌が時計を指さしたので見てみると、確かに時間は12時を5分も過ぎていた。 時間通りに来なかった。 「やっぱり来なかったね。ちょっと事務所の前を確認してきてよ。置いてあると思うし」 「あぁ、わかった」
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加