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特にやることがなく、ひたすら事務所で暇をしていた俺達だったが、時間が過ぎるのは早いもんで、なんだかんだで時刻は12時を回ろうとしていた。
「もうそろそろ時間だねぇ」
昌が机に突っ伏して締まりのないだらけきった声を出す。
暇すぎてしびれを切らしたのか、まるでクラゲのようだ。整ったビジュアルが台無しだ。
普段ならもう少しキッチリしているが、来ないとふんでいるのでこの通りなんだろう。
この調子でいられると気が滅入るので仕事の話を切り出してみる。
「そういえば、今回は何を運ぶんだ?」
「バッグ。大きめのキャリーバッグって言ってたよ。中身までは訊いてないけど」
そう言って昌は机から起き上がり、座ったまま軽く伸びをした。
「そうか。まぁ配達先が配達先だし、裏ものは入ってないだろうな」
主に、薬とか銃とか。
「さぁどうだか? そういうテロかもしれないよ?」
「爆弾ってか? おいおい、そんな縁起でもないこと言うなよ」
と笑ってみせる。
昌は笑っているが、口元だけの話で、目は笑っていなかった。
「……ちなみに運ぶのは俺の仕事だよな?」
「うん。当たり前じゃん」
親指を立てて爽やかな笑顔が作る昌。
輝かしいけど黒々しい。別名“Gスマイル”
「お前はホントに楽でいいよな!」
「だって力仕事は洋平君の担当じゃん?」
「ていうかほとんどの依頼を俺がやってるっての!」
「若者は働いてなんぼだよ?」
「同世代!!」
行き場のない拳――ではなくツッコミを机にぶつけるが、ただバンッと鳴るだけで、肝心の昌は知らんぷりだった。
痛ぇ。
「あ、もう12時過ぎてる」
「え?」
昌が時計を指さしたので見てみると、確かに時間は12時を5分も過ぎていた。
時間通りに来なかった。
「やっぱり来なかったね。ちょっと事務所の前を確認してきてよ。置いてあると思うし」
「あぁ、わかった」
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