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「悪い。待たせたな」
零夜は玄関に着くとすぐに、そこに立っている人物にそう言って靴をはいた。そして顔をその人物に向けるとクスクスと笑って両手を後ろで組み、零夜を見ていた。
「いいよ、気にしなくて。まだ時間はあるし、夜はいいお兄さんだからね。家族にしっかりと相手をしてこそ、夜だよ」
「俺がいいお兄さんだとすると、玲華はいいお姉さん……というか、天使みたいなものか?」
零夜がそう言いながら、玄関を開けて外に出ると玲華は顔を少し赤くしながら、言葉を返す。
「私はそんなんじゃ……って、それよりも夜、また自分のことを卑下したでしょ!」
その言葉に零夜は何も返さない。それは事実であり、言い返したとしても言い訳でしかなく、その言い訳は通用しないと分かっているためだ。
「前から何度も言っているけど、夜は」
「ここともしばらくはお別れだな」
そして、零夜は玲華の説教にも似た言葉を遮り、話を変えることにした。それに対して玲華は不満があるようだったが、息を一度吐くと、言おうとしていたであろうものとは違う言葉を口にする。
「そうだね。でも、この施設は私たちの家。私たちの帰る場所だから、悲観的になることもないと思うよ」
「……そうだな。二度と戻れないわけではないよな」
二度と戻れない。この言葉で零夜と玲華は昔のことを思い出していた。時期こそ違うものの零夜と玲華にも、施設に訪れる前には家族との暮らしがあった。そのことを2人は考えている。
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