Prologue

6/6
前へ
/17ページ
次へ
『……入るぞ』 菩薩はあれから何度も青年の部屋を訪ねた。 白に統一された何も置いてない殺風景で無機質な部屋。 そこにただ、青年は居る。 そう、ただそこに“居る”のだ。 『……また、見てるのか?』 青年が見ているのはかつてそこには満開の桜が咲いていた場所…。 青年と彼等が出会った場所…。 そして、約束を交わした場所…。 『……お前は…。 記憶を封じられても尚も忘れないんだな』 菩薩の言葉に青年は答えなかった。 だが、代わりに青年の目から涙が流れていた。 あれからずっと青年はこうだ。 菩薩が訪れる度見る光景は同じ…。 全ての記憶と力を封じられた青年はあの日からずっとこうだ。 たしかにここに居るのに…。 青年の心は…。 そんな青年を見て菩薩はどこか悲しげに微笑んだ。 『……いい加減眠れ』 そっと青年の額に触れた。 今度は長い時間起きない様に…。 いや、夢の中だけでも青年が笑っていられる様に……。 菩薩は青年の額に優しく口づけを落とした。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加