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『……入るぞ』
菩薩はあれから何度も青年の部屋を訪ねた。
白に統一された何も置いてない殺風景で無機質な部屋。
そこにただ、青年は居る。
そう、ただそこに“居る”のだ。
『……また、見てるのか?』
青年が見ているのはかつてそこには満開の桜が咲いていた場所…。
青年と彼等が出会った場所…。
そして、約束を交わした場所…。
『……お前は…。
記憶を封じられても尚も忘れないんだな』
菩薩の言葉に青年は答えなかった。
だが、代わりに青年の目から涙が流れていた。
あれからずっと青年はこうだ。
菩薩が訪れる度見る光景は同じ…。
全ての記憶と力を封じられた青年はあの日からずっとこうだ。
たしかにここに居るのに…。
青年の心は…。
そんな青年を見て菩薩はどこか悲しげに微笑んだ。
『……いい加減眠れ』
そっと青年の額に触れた。
今度は長い時間起きない様に…。
いや、夢の中だけでも青年が笑っていられる様に……。
菩薩は青年の額に優しく口づけを落とした。
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