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待って…。
行かないで…。
俺を置いて行かないで……。
…空ッ!…簾ッ!…蓬ッ!
どんなに追い掛けても、呼び掛けても、届かない…。
……蝉ッ!!
待って!!
一人に…しないで……。
「!!?」
紫がかった銀髪の青年は悪夢に魘され目を覚ました。
澄んだ翡翠色した瞳からは涙を流していた…。
青年はそんな自分の状態に眉間に皴を寄せた…。
「(…また、あの夢か…)」
青年…。
夜宵(やよい)は自分の頬に流れる涙を拭い
呆然と白い天井を見つめた。
白に統一された殺風景な部屋。
此処が彼…。
夜宵の部屋だ。
無駄に広い無機質な部屋
必要用最低限の物しか置いてない。
それは夜宵の性格を表してるかのようだった。
そして、夜宵はここ最近頻繁に見る夢のことを考えた。
いつもなら、断片的にしか見ないのに、今日のはやたらリアルで…。
まるで自分の記憶の様な感覚だった…。
そこまで考えて夜宵はある人物に呼ばれていたのを思い出し、舌打ちをしベッドから起き上がった。
「めんどくせぇ…。」
一応、言っておくが、夜宵はこれでも神様だ。
と、言っても夜宵は罪深い神と呼ばれ忌み嫌われているが…。
「…あいつが俺に用がある時は大抵、嫌な予感しかしねぇんだよな…。」
それでも、行かなければならない。
自分がこうして自由に居られるのは他ならぬあの観世音菩薩のおかげなのだから…。
だが、気に食わないのがあの菩薩の態度と口だ。
天界を司る五大菩薩の一柱で、慈愛と慈悲とされているが…。
まったくもってその要素はない。
何が慈愛と慈悲だ。
菩薩に慈愛と慈悲なんて言葉があったら、正しく天地がひっくり返る。
そう思いながら、夜宵は上着を軽く羽織り部屋を出た。
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