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守れなかった…。
守ると約束したのに…。
あの子を…。
俺達の…。
大切な…。
『菩薩!!』
『……なんだ?』
『貴様ッ!!
どいうことだ!!』
普段から感情を表にすることのない青年は目の前で憮然と立つ黒髪の女に掴み掛かった。
黒髪の女はそんな青年をただ黙って見つめていた。
それが癪に障ったのか鋭く睨みつける青年に黒髪の女は笑った。
何がおかしいと睨む青年に黒髪の女は目を細めた。
『…お前が泣こうが…。
騒ごうが…。
もう、あいつ等は居ない。』
静かに…。
そして…。
真っ直ぐに…。
告げられた言葉。
『!!?』
青年の瞳は揺れる。
そんな青年の変化に黒髪の女は悲しげに笑った。
もちろん、青年に気付かれない様に…。
『…お前は十分やったよ。』
『………』
『あいつ等は己の意志で動いたんだ』
『……約束』
『?』
まるで独り言の様に呟く青年に黒髪の女は首を傾げた。
『…あの子を守ると誓った…。』
『………。』
『せめてあの子だけは守りたかった…。』
俺は無力だと力なく笑う青年に黒髪の女は何も言うことが出来なかった…。
何故なら青年の大切にしていた“あの子”
すなわち少年の全ての記憶を封じたのは…。
紛れも無く黒髪の女自身なのだから…。
天界での殺生は許されない。
その結果だ…。
『…何故、俺は生きてる?』
『……』
『答えろ?』
青年は黒髪の女に詰め寄った。
その姿は普段の青年からは想像つかない行動だった。
『…俺が神だからか?
それとも、俺が化け物だからか?』
『…夜宵…』
『…でも、そんなことどうでもいい』
どこか自嘲気味に笑う青年の姿が痛々しいと黒髪の女は思った。
『天界での殺生は許されない』
『……そんな御託どうでもいい
なぜ、俺は生かされてる
なぜ、俺には何もない』
『……何もないワケじゃない。』
黒髪の女の言葉に青年は笑った。
『…あの子と同じことをするのか?』
『……それが上からの命令だ。』
『嘘つけ
俺達を守る為だろ?』
黒髪の女は答えない。
否、答える気など最初からこの唯我独尊な目の前の神にはない。
『……死んだ方が…』
『マシか?』
黒髪の女の言葉に青年はしばらく黙り首を横に振り、小さく笑った。
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