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『…俺は死ねない…。
あいつ等の分まで生きなきゃいけない。
例え自分を見失うことがあっても…』
『……お前は上の命令で力の全てを封印される。
そして、記憶さえもな
逃げるなら今だぞ?』
『…冗談はやめろよ。
俺はアンタを殺してまで逃げる気はない。』
『ほぉ?俺がお前みたいな餓鬼にやられると?』
面白れぇじゃねぇーかと笑う目の前の黒髪の女に青年は呆れにも似た眼差しを向けた。
『…楽しむなよ』
『お前が悪い』
『どんな理屈だよ』
しばらくの間沈黙が続き
先に口を開いたのは青年だった…。
『……菩薩』
『…なんだ?』
『……記憶が封じられたら二度と戻らないのか?』
黒髪の女…。
菩薩は何も答えなかった。
『…随分重いな…』
体を痛めつけられるよりも…。
己の力が封じられるよりも…。
重く辛い…。
『……安心しろ。
お前の面倒は俺様が見てやるよ。』
『…そうか』
青年は菩薩の言葉に笑った。
そして、目を閉じた。
菩薩はゆっくりと青年の額に手を置いた。
『……菩薩』
『?』
『ありがとう。
そして、ごめんな…。』
青年はそれを最後に意識を手放した。
倒れる寸前だった青年の体を支え菩薩は青年の目から流れる涙を優しく拭った。
『……謝るのは俺だろーが…。』
菩薩は気を失った青年を軽々と持ち上げその場から立ち去った…。
観世音菩薩の上層部からの命令は青年の全ての記憶と力を封じ、二度と目覚めさせないことだった。
だが、観世音菩薩はその命令に背いた。
記憶と力は封じたが二度と目覚めさせないという命令だけは聞けなかった。
二度と目覚めさせない。
それはすなわち死にも近いことだ。
だから、観世音菩薩は青年を自分の元へ引き取った。
観世音菩薩の監視の元でなら誰も文句は言えないからだ。
菩薩は自嘲気味に笑った。
こんなことしても何も変わらないのに…。
青年は…。
記憶の全てを封じられても…。
今も尚泣いているのだから…。
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