不死者は冷ややかに笑う

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 分厚い辞典をめくりながらメガネのずれを直す委員長を想像すると、なるほど不思議としっくり来た。  嫌味ではなく勉強や読書に励んでいる……本人は励んでいると思っているかは定かではないが、はたから見てとても似合っていると思った。  それにしても退屈だ。夕焼け色の街で明らかに僕は浮いていると思う。  現実世界で充実している人間を「リア充」というなら僕は完全にリア充の基準から逸脱していた。  もし仮に充実しているように周りから見えても、僕が充実感を得る日なんて永遠に来ないと思えた。  「器用貧乏」という言葉がある。僕はまさにその「器用貧乏」だった。  自慢では無いが一度、オール5を体験したことがある。その実、全教科八十五点。  基準点ギリギリの「五」だ。オール5といっても全ての教科で自分より勝る人間が居た。 半ば絶望に近い挫折だった。  なんでも取り敢えずできる が、何一つ残すことができない。  この先六十年強続く人生を想像してぞっとした。そして、その時生まれて初めてあの言葉を口にした。      「死にたい」と。
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