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「かつらを、着けろ。」
「…は?」
拉致され知らぬ場所へ連れてこられた上に目の前にいる奴が、かつらを差し出しながらの第一声がそれだったら、こちらの第一声だって決まっているだろうに。
「もう一度言う。かつらを着けろ。」
「なんで…?」
思わずぽろっと呟いてしまった。
周りを見ると見知らぬものばかり。
現に目の前にいる奴や周りの奴の服なんか見たこともない。
目の前の奴は随分着込んでいる。
赤い布で裾が長い。女のような…。
動きづらくないのだろうか…?
文化が違うということは、やっぱりここは俺がいた国ではないと踏む。
しかし俺の国は拉致なんてなかなか無かったぞ、なんて思う。
そんな事をぐるぐる考えていると目の前の奴が、
「お前は今日からこの国の女王だ。」
「…。」
うん、全く意味がわからないぞ。きっと言葉が違うから、とんちんかんな事を言われてるように聞こえるのか。
というか、通訳いねぇのか?
俺かてさっさと終わらせたい。
俺の事など、どうでもいいように男は続ける。
「受け入れるか、死ぬか、どちらがいい?」
おい。勝手に話を進めるな。
まだ頭が情報を処理できないんだ。
時間をくれ。
男は大きな溜め息をつく。
溜め息つきたいのはこちらだというのに…。
「…拒否をするか…。こちらとて国家機密だ。おまえを殺す他ない。口外されては困るからな。」
ガチャンとこめかみに銃を当てられる。
「ちょっ…え?」
嘘だろ?言葉と動作が同じで、展開が早すぎる。俺死ぬのか?
というか俺、一回も拒否してないのだが。
黙ってただけなのに…。
床にある質のいい絨毯を掴む。
「助かりたいか?」
そんな事を聞いてくる男の顔は冷たい。
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