宮野くんの憂鬱な日々

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「ぬ、ぬこ!! どこどこ!?」 猫の鳴き声に、一気にテンションがマックス・ボルテージに達した一樹は、自分が急いで自宅に戻ろうとしていたことも忘れ、公園へと足を踏み入れて猫を探し始めた。 「ぬ、ぬこはどこ!?」 一樹は必死になって猫を探し回る。 その間にも、どこかから、「にゃー」という猫の鳴き声が何度も聞こえてくる。 一樹がその声を頼りに探していくと、公園の中で最も大きな樫の木の下で、真っ白い子猫が小さく丸まっていた。 一樹が近づくと、子猫は一樹の方を見ながら、「にゃー」と鳴く。 弱っているのか、一樹が近づいても子猫は逃げ出す様子を見せない。 それどころか、まるで一樹が来ることを待っていたかのように、小さな瞳を潤ませて、「にゃー」と鳴く。 「か、かわいい!!」 その猫の可愛らしい姿に、一樹はもう他のものは何も見えなくなっていた。 一樹は猫の元に駆け寄ると、手袋を外してポケットに納めてから、そっと猫を抱き上げた。 「ぬこさん、ぬこさん。僕の名前は宮野一樹だよ。ぬこさんのお名前は?」 「にゃー」 「そっか。まだお名前がないんだね」 「にゃー」 「だったら僕がつけてあげる」 「にゃー」 「何がいいかな?」 「にゃー」 「じゃあ、真っ白だからシロに決まりだね」 「にゃー」 「そうかあ。嬉しいかあ」 一樹はそう言うと、シロに頬ずりした。 シロは寒さでひどく震えていた。 一樹はシロを暖めるために、首に巻いていたマフラーをはずし、それでシロを包み込んだ。 「これで少しは暖かくなったかい?」 「にゃー」 シロは嬉しそうに鳴いて、一樹の指をペロペロと舐める。 「あはは、くすぐったいよ」 一樹がそう言って、声を挙げて笑ったそのとき、突然背後から誰かが一樹の両肩をものすごい力で掴んだ。 これまで何度もナンパされたことがあるとはいえ、こんな実力行使をされるのは初めてだった。 一樹は振り返って背後の人間の顔を見ようとするが、相手の力が強く、振り返ることができない。
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