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一樹の肩を掴む力はだんだんと強くなっていくように感じられた。
もしかしたらナンパなどではなく殺されるのかもしれない、そう思った一樹は急に恐ろしくなり、抱いていたシロをその場に下ろすと、肩を掴む手を振り払うために着ていたコートを脱ぎ捨て、一目散に駆け出した。
逃げ去る一樹の背後から、彼の肩を掴んでいたと思われる人間が何か声をかけているようだったけれど、一樹は逃げるのに必死でその声を聞き取ることはできない。
そして、一樹はそのまま自宅まで走って戻ると、玄関の扉にしっかりと鍵をかけてから二階にある自分の部屋に駆け込み、部屋の扉もしっかりとロックしてから、カーテンを閉めた。
一体何だったのだろう、一樹は考えるけれどわからない。
誰かに恨まれるようなことをした記憶も一樹には全くない。
しかも、逃げるのに必死で、肩を掴んだ人間の顔すらも見ていない。
背後から聞こえてきた声で、それが男だったということはわかるのだけれど、年齢もわからなければ背格好もわらかない。
とにかく、何一つとして一樹にわかることなどないのだ。
一樹はベッドの布団にくるまり、ただブルブルとその身を小刻みに震わすことしかできなかった。
ただ、一樹は震えながらも、放り出してしまったシロのことが気になって仕方がなかった。
脱ぎ捨てたコートのことなど、どうだってよかった。
あの可愛らしいシロが、あの凶悪な男の手によって、何らかの酷い目にあわされていないか、それだけが気がかりでならなかった。
だけど、今から一人で公園に戻り、シロの様子を見に行くだけの勇気も一樹にはない。
もしもあの男がまだ公園にいたとしたら、そう考えると、一樹はどうしても布団から出ることができなかったし、まして部屋から出ることも、家から出ることもできなかった。
一樹はただ、布団にくるまりながら、シロの無事を祈ることしかできなかった。
そんな自分が不甲斐ないと感じながらも、それでも一樹は体の震えを抑えることができないのだ。
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