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しかし、一樹は一人で歩き始めてすぐに異変を感じた。
自分の後ろからヒタヒタと足音が聞こえてくるのだ。
決して人通りが多い道ではないとはいえ、住宅街である以上、道を歩いているのが一人であるとは限らない。
一樹の後ろから、近所の住民が歩いてきているとしても、何らおかしなことはない。
しかし、一樹はその足音がおかしなものであることにすぐに気づいた。
なぜならば、一樹が歩くのをやめると、その足音も止まるのだ。
明らかに、その足音は、一樹つけて来ている誰かの足跡だった。
一樹はその足音の主が、昨日の男の足音なのだということはわかっていた。
それ以外に考えられることなどない。
タイミングよく振り返れば、つけて来ている男の顔を見ることができるのかもしれないが、万が一顔など見てしまうと、そのまま何をされるかわからないという恐怖感も拭いされない。
近くに交番でもあれば駆け込むところなのだが、少なくとも半径一キロメートル以内にには交番など無い。
一樹はただ恐怖に怯えながら、早足で歩く。
一樹は真っ直ぐに家に戻ることも考えたが、それと同時に、真っ直ぐに家に戻ることによって、自分の家を知られてしまうという危険性にも気づいていた。
一刻も早く恐怖から逃れる為には、真っ直ぐに家に戻るのが一番なのであろうが、今後のことを考えると、つけて来ている男を巻いて、気づかれないように自宅に戻るのが一番だ。
一樹は何度も何度も住宅街の細い路地を曲がり、ときどき後ろを振り返りながら男が付いてきていないことを確認して、ようやく自宅へと駆け込んだ。
本来であれば二分少々で帰りつくはずだった自宅にたどり着くまで、実に一五分もの時間を要していた。
だけど、たった一五分で、危険な男に自宅を知られることなく過ごせるのであれば、安いものなのかもしれない。
だが、一樹の恐怖はその日一日では済まなかった。
それから終業式までの間、一樹は毎日友人と一緒に帰るようにしていたのだが、公園で友人と別れると、決まってその男に追いかけられた。
そうして、一樹は冬休みに入っても自宅から出ることもできない日々が続いていたのだ。
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