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時計を見ると、時刻は午後一時を少し回ったところだった。
一樹の両親は交通事故で入院している友人の見舞いに出かけているため、朝から家にはいなかった。
一樹にも一人でいるということに対する不安がないわけではなかったが、高校生にもなって一人でいるのが怖いなどと両親に言うわけにもいかなかった。
一樹はもう一度深いため息を吐き、ベッドに横たわった。
そのとき、机の上に置いておいた携帯電話が突然鳴り出した。
一樹は起き上がり、携帯電話を手に取る。
携帯電話の液晶画面には、友人である誉の名前が表示されている。
「もしもし」
一樹が電話に出ると、「もしもし~」と、友人である誉の屈託のない無邪気な声が耳に飛び込んでくる。
「どうしたの?」
「ねえ、これから一緒に遊ぼうよ~!!」
「うーん」
「どうしたの~?」
一樹の煮えきらない反応に、誉は心配そうに尋ねる。
誉は一樹の置かれている状況を何も知らないのだ。
だが、一樹にしてみれば、誉と遊びたいという気持ちはあっても、どうしても外出する気分にはなれないのだ。
一樹はどうするべきか迷ったが、このまま誉を心配させる訳にもいかないと考え、冬休み前に起こった出来事を全て誉に説明した。
すると、誉は声を上げて笑い、「一樹、もしかして怖いの~?」とからかうように言う。
その言葉に、思わず一樹も、「怖いわけないんだから!!」と反論する。
すると、誉はさらにからかうように言う。
「だったら、駅前で待っているから、これからおいでよ~」
「わかったよ。駅前に行けばいいんでしょ!? 怖がってるなんて言わせないんだから!!」
「じゃあ、待ってるよ~」
誉はそう言って電話を切った。
だけど、一樹は誉に言った言葉を後悔していた。
これから駅まで行くとは行ったものの、本当は怖くて駅まで行けそうにもない。
だけどこれ以上、誉にからかわれるのも悔しくてならなかった。
一樹は五分ほど部屋の床にうずくまり、じっと考えてから、ようやく勇気を振り絞り、出かけることにした。
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