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宮野くんの憂鬱な日々
どこかで鳥がが鳴いている。
その姿は見えないが、決してそう遠くではない。
おそらくは、近所の公園に植えられた木にでもとまって鳴いているのだろう。
しかし、鳴き声だけでは、何という鳥の鳴き声なのかはわからない。
たとえばウグイスのような特徴的な鳴き声をあげる鳥であれば、たとえ姿が見えなくてもわかるのであろうが、そうでなければ、鳥に詳しい人間ででもない限り、鳴き声を聞いただけでその鳥の種類を当てることは容易ではない。
鳥は二度鳴いて三十秒の間を置いて、また二度鳴くという規則正しいリズムで、綺麗な声を響かせていた。
そんなウグイスの鳴き声を聞きながら、一樹は机に肘をつき、両手で顔を支えながら、深いため息を吐く。
冬休みに入り、もうすぐ新年を迎えようとしているのに、一樹の気分は晴れなかった。
まるで、分厚い灰色の雲が燦々と照りつける太陽の光を完全に遮断してしまったかのように、一樹の心の中にはただ深い影が根を張るように存在している。
一樹は引き出しの中から黒のボールペンを一本取り出して右手の親指と人差し指で握ると、器用にクルクルと回した。
それからもう一度、深くため息を吐く。
冬休みに入ってからというもの、一樹は一度も家の外には出ていなかった。
もっと言えば、食事やトイレ、風呂の時には、ほとんど自分の部屋の中から出ることはなかった。
一樹の部屋は一〇畳ほどの広さがあり、その中に机やベッドが置いてあり、テレビもあればパソコンもゲームもある。
部屋から出なくても、そのなかで十分に時間を潰すことができるだけのものが揃っている。
しかし、一樹は部屋にこもってパソコンに熱中しているわけでも、ゲームにのめり込んでいるわけでもなかった。
ただ、外出するのが怖くて仕方がなかったのだ。
事の発端は、冬休みに入る一週間前、一樹が下校中に起こった出来事にあった。
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