繋がり2

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仕事は終了。 暇なので、カバンから学校の教科書を出して開く。こうゆう空き時間にはできるだけ勉強をすることにしている。勉強が好きな訳じゃない、はっきりいえば、ぼーっとしたり、遊んだりしたいのが本音なのだが、成績をある程度維持できるようにという努力。一般教養レベルの知識は付けておいて損はないだろう、というかいつまで学生でいられるかなんてわからないし。 進学したいけれど、うちの経済状況では難しいそうだ。うちの親父はリストラにあって再就職先が見つかっていない。以前は大手の保険会社に勤めていたので、どちらかといえば裕福なほうだった。こうなるまで、俺も金の心配をしたことなどなかったし、親の仕事や将来についても心配したことはなかった。当然のように進学もできるものだと思っていた。今にして思えば、絵に描いたような恵まれた家庭環境だった。 母親もこれまでそんな状況を経験したことなどなかったのだろう。親父のリストラ以来パートで働きに出ているが、これまでまともに働いたことがなく精神的に不安定で家の雰囲気は最悪だ。 俺も今ではこうして落ち着いているが、親父がリストラになって家庭環境がガラリと変わり、経済的理由によって志望していた私立高校への進学を断念させられ、公立への進学となった時はかなり落ち込んだ。 それまで描いていた将来がすべてダメになった気がした。 なにもかもが嫌になって、全部壊れてしまえばいいと思った。 でもそんな俺を引っ張りあげてくれたのが、藤原さんだ。大げさかもしれないけれど、俺に生きる意味を教えてくれた。俺に大丈夫だと思わせてくれたんだ。あの時、藤原さんに出会っていなかったら今の俺はいないだろう。 今こんな風に、心の平穏を取り戻すことはできなかったと思う。 藤原さんのことを考えるだけで、胸が苦しくなる。昨日の事を思い出して身体が熱くなるのを感じる。 いやいや、勉強しないと。教科書に目を戻す。 そんなことをしながらずいぶん時間がたった。藤原さんはまだ来ない。
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