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まあ、そうだよな。
「あの。アツキさんって、いま忙しいっすかね。マナトって言ってもらえば分かるんで。」
ちょっとスカした感じに話す。
ああ、ちょっと待ってね、とお姉さんが席を立つ。
すぐにアツキさんが来た。
アツキさんは男の人だけどネイリストで、ここの稼ぎ頭の24歳。
元々はホストをしてたらしいけど、身体を壊してこっちへ転職。
「おー、マナト、久しぶりだな。元気にしてたか。」
アツキさんが言う。
「ご無沙汰です。アツキさん今忙しいっすか。」
俺は窺うように言う。
「あー、いまから1件入ってんだ。三十分くらい待っててくれたら終わるけど。」
アツキさんが渋い顔をする。
「マジっすか。全っ然、大丈夫です。」
俺は答える。
「じゃあ、ここで待ってな。適当にくつろいでろ。しばちゃん、こいつマナト。俺の知り合いだからここで待たしてやって。」
俺と、しばちゃんと呼ばれた休憩室にいた女の人にそう言って、アツキさんは表へ戻っていった。
それから、そのしばちゃんと話したりして、結局50分くらい待っていたが、時間はすぐに過ぎた。さすがこういう仕事をしてるだけあって、しばちゃんは話しが上手い。
アツキさんに呼ばれて個室に案内される。
テーブルを挟んで向かい合わせに座って、俺は左手を差し出す。
「忙しいとこをすんませんね。」
俺は断わりを入れる。
「いや、いいよ。空いたし。何本?」
「あ、今日は中指1本だけで。」
「なんだよ、つまんねーな。もう1本くらい塗れよ。」
「あ、じゃあ、もう1本。」
「またライヴ?」
「はい、でもゲストで出るだけなんで。」
「そういうことね。」
アツキさんは俺の爪に手際よく下処理をしていく。いつもながら手付きが鮮やかだ。さすが元ホスト。
「でも、お前さいきんあんま出てないだろ。」
「よくご存じで。」
「この前マリが来て言ってたよ。お前の歌が聴きたいって。」
「マジっすか。」
「おお、マジで。」
「マリさん、俺のファンだったんすね。」
「みたいだな。」
俺のファンというのは冗談で言ったつもりだったが、さらっと肯定されてしまった。そうなんだ。
アツキさんは色を塗り始める。
俺はいつも色もデザインもお任せなので、アツキさんは自分のやりたいようにやっていく。
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