繋がり4

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「ゲストではちょくちょく出てんですよ。今日みたいに。そういや、さいきんなんか出てますか。」 俺はさり気なく訊く。 俺の爪に集中していたアツキさんがちらっと俺をみる。 「なんかって?」 「この前のライブに来てた子が、なんかやってるっぽかったんすよ。さいきんあんまみかけなかったもんで。」 「さぁ、ここんとこそっちには出してない。危ないからな。」 “そっち”というのは、一般の若者という意味だ。 「へえ、そうっすか。」 アツキさんの動きが止まる。 「お前、やってないだろうな。」 アツキさんが俺を睨む。 「まっさか。」 俺はおどけて答える。 「ならいいけど。」 アツキさんは俺の爪に何かのスプレーをふる。 「俺はどっちかってと、アンチですよ。その子、実は友達なんで、ちょっと心配で。」 「早めに止めさせたほうがいいぞ。俺も詳しくはしらんが、なんかさいきん変なのが出回ってるらしいから。」 アツキさんが小声で言う。 「変なの?」 俺は興味なさそうに言う。 「詳しいことは知らんが、危ないってよ。」 アツキさんは目を細めている。今手動かしたら怒るだろうな。 「はぁ、まあ、どれも危ないっすからねぇ。」 俺は呑気に答える。 「さぁ、出来た。」 アツキさんが満足そうに言う。 俺は自分の爪を眺める。 左手の中指と人指し指が黒と紫のストライプになってる。薬指にはドクロ。 「おお、ありがとうございます。」 俺も満足そうに言う。 ちょうどお客さんが来たらしく、スタッフが声を掛けに来た。 「ありがとうございました。じゃあ、俺はこれで。また来ます。」 頭を下げる。 「マナト、絶対手で出すなよ。俺が入れてないんだ、意味わかるな。」 アツキさんが真剣な目で俺をじっと見る。 俺は無言で頷いて、部屋を出た。 休憩室には違うスタッフがいたので、挨拶をして帰る。 やばいってことね。 アツキさんは何か知ってるんだろうけど、言える立場じゃないんだろうな。 末端だからな。 アツキさんは末端の売人だけれど、ネイリストとしての仕事のほうが本業で、馴染みの客にちょっと捌いている程度。だから、悪意のある売り方はしない。相手も選んでる。 今回の代物はなんらかの害がある。害か。ドラックなんてどれも害がるけど。 やっぱり、いままでのスピードやLDSとは違うみたいだ。それなら、アツキさんはそう言った筈だ。
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