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「いや、ゲストっす、もともと俺はピンですから。」
「そうなの?でも前はずっとあのバンドで歌ってなかったっけ。」
「ボーカルが見つかるまでってことで、仮だったんで。」
「そうなんだー。どうしようかな、店早めに閉めちゃおうかな。」
マリさんはうーん、と考えている。
「でも、珍しいね。私のとこへくるなんて。」
マリさんが顔を上げる。
「さっきアツキさんとこ行ったんです。マリさんの話が出たんで。」
俺は左手を見せる。
おおーっといっておれの左手を取る。マリさんの爪は、青と水色のグラデーションにきらきら光る石が付いている。アツキさんがやったのかな。
「何、私の話って?」
「え、ああ、、さいきん俺が出てないって言ったんでしょ。」
「ああ、言ったかな、そんなこと。それで、持ってきてくれたの?」
「まあ、そんなとこです。それと、ちょっと聞きたいことあって。」
「ん?」
「俺の連れが、手出してるみたいなんですけど、さいきん出ました?」
マリさんの顔が一瞬真剣になる。
「んー、出てない。ちょっと今までとは違うみたい。」
マリさんは意味を理解してくれたみたいだ。ここでもないか。今までとは違う、か。
「その友達は早いとこ隔離して、首突っ込まないほうがいいよ。まったく金持ちの子が食い物になるとは、うまいんだかなんなんだか。」
金持ちの子。確かにN高は私立でどちらかというと裕福な家の子が多い。
「へえ、そーなんだ。じゃあ、俺も気を付けないと。」
俺はヘラっと言う。
「あんた学生じゃないでしょ。手出しちゃだめよ。」
手を出すなという口調がキツイ。そんなに危ないのか。まあ、どんな薬でも手を出すなとは日頃から言われてはいるけれど。
「俺が学生ならいいんですか。」
俺は聞いてみる。
「やっぱりね」
マリさんが呆れる。
「悪いけどあんたには渡せないし、あいにく、そんなに数が入ってくるもんでもないし、安くもないから。」
どういうことだろう。俺の意図を知ってる風な口ぶり。考えられるのは。
「アツキさん。」
俺は心当たりの名前を出す。
マリさんが頷く。
「さっき連絡があった。たぶん、あんたが来るから、ぜったい出すなってキツく言われた。あんたのこと大事なのよ。アツキは人と深く関わるタイプじゃない。そのアツキが気に掛けてるんだから、汲んであげなさい。」
マリさんが俺を諭す。
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