はじまり

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時計を見る、7時すぎ。 夕飯どうしようかな、当番の時は大抵10時頃まで事務所にいる。 奥にもう一部屋あって、シャワー付き、泊まり込むこともできる。 もちろん部外者の連れ込みは厳禁。 自分でいうのもなんだが、みんなプロ意識があって情報を漏らしたり、女連れ込んだり、サボったりってことは一切しない。誰に言われたわけでもないけれどそういう規律がここにはある。 今日はどうしようかな。 オレは家に帰っても誰もいないことが多いので、当番の週は泊まり込むことが多い。 着替えは常備してある。 ここのメンバーは全部で7名。 招集のあった時だけしか来ない人もいるけど、みんなちょくちょく覗きに来る。 オレは他に用事がない時はだいたいここにいる。 ユズルさんはあまり来ない。それこそ用事がある時しか来ないタイプ。 今日はどうしたのかな。 ぼーっとしてるのはいつものことだけど。 「ユズルさん、まだいます?ユズルさんいてくれるなら、オレ飯買いに出ていいですか?」 「あぁ、そっか。そんな時間だ。いいよ、いってきなよ。」 「ユズルさんもなんかいります?」 「うん、適当に買ってきて」 「マック行きますけど」 「ビックマックのセット、コーラで」 「了解」 「金、後でいい?」 「いいですよ」 椅子に掛けていた制服のブレザーを着る。 財布と携帯だけ持って部屋を出る。 事務所は小さなテナントビルの三階にある。 五階建てで、元々はアパートだったのを事務所に作り変えたらしく、その名残でシャワーがあるらしい。 各フロアに一部屋ずつ。 一階と二階はサプリメントの通販会社。 四階は空いていて、五階は眼科が入っている。 中心街の裏側にあり、少し胡散臭い雰囲気がある建物が並ぶ。古いテナントビルとアパートが不規則に並び人通りも少ない。 歩いて行ける範囲に予備校が二軒あるので、制服でうろついても違和感はない。その辺の立地条件は考えらて事務所の場所として選ばれたのだろう。 マックに向かって歩く。 またあの人のことが頭に浮かぶ。 オレの名前を呼ぶ声。 触れられた指の感触。 あの人の匂い。唇。 息が詰まる。オレはいつの間にか立ち止まっていた。目を閉じて気持ちを落ち着かせる。 こんなに全部、支配されるような感情…初めてだ。 会いたい。 だめだ、自分を見失いそうな不安。 気を取り直して歩き出す。
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