450人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
よく考えたら、着替えに行かずに来てしまったけど、まあ、いっか。
控室にはいると、みなが歓声を上げて迎えてくれる。一通り挨拶を交わして、リハーサル。
今日は俺はゲストなので、持ち歌1曲、メインのバンドの曲を1曲、ツインボーカルで一緒に3曲。そんなに出番はない。以前はよく一緒にイベントなんかをしていたので、リハーサルは問題なく終了。このところ歌っていなかったのもあって声が前ほど出ない。
本番前にもう少し喉を温めよう。
俺は一人になれる場所を探して、2階へ。
2階は事務所と、練習用の小さな個室が2つある。両方とも使用中だ。
ガラス窓が付いているので、手前の方を覗くとよく知っている奴だ。ギターを弾いてる。
ガラス窓から手を振って合図をする。
気が付いたので、中へ入る。
「久しぶり。」
「ああ、今日来るっていうから楽しみにしてたよ。元気だったか。」
「元気、元気。ちょっと声だしさせて。」
「ああ、どーぞ。時間潰してるだけだから。」
喉を温めて、本番。
わっと沸く客席の歓声に気持ちが高ぶる。
客席の熱気に煽られて、俺の喉もよく響いてくれる。俺の事を知っているお客さんが名前を呼ぶのが聞こえる。一人一人に届くように声を鳴らす。最高の気分。歌うのが好きだ。
歓声に酔う。もっと、歌いたい。ステージに立つといつもそう思う。
客席の一番後ろにマリさんが立っているのが見えた。小さなライブハウスなので、一番後ろまで見通せる。
出番がすべて終わったので、マリさんのところへ行く。
「マリさん。来てくれたんですね。」
「うん。よかったよ。久々にマナトくんの美声聞けた。」
うれしそうに言ってくれる。
こういうことを言ってもらえると、また歌おうと思える。
「ありがとうございます。ひさびさだったんで、ちょっと聞き苦しかったかもしれないですけど、練習不足ですね。すみません。」
「そんなことないよ。でもまた前みたいにもっと歌えばいいのに。」
「そうですね。考えてはいるんですけど。」
「うん、期待してる。・・・・アツキから連絡あったよ。心配してた。」
「大丈夫ですって。ほんとに手出してないですし、出す気もありません。すみません、心配させてしまって。アツキさんにもそう言っておいてください。俺もまた近いうちに顔出しておきますよ。・・・それにしても、そんなやばいんですね。」
マリさんの表情を窺う。マリさんは何も言わずに、頷くだけ。
最初のコメントを投稿しよう!