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人の気配はしない、静かだ。
すりガラスのドアの向こうに明かりが付いてるが、人影は見えない。
とりあえず、三階にも上がってみようと、上がりかけた視線の先の踊り場に、立ち入り禁止のプレートとチェーン。
上は事務所か。
俺は一応あたりをそれとなくカメラなんかがないか、確認してチェーンを超えて、上へ行く。
三階は一階と同じで電気は付いていない。
ドアも磨りガラスになっていないので、中の様子はわからない。
ドアに耳を宛てる。物音はしない。
ドアのノブをゆっくりと回してみる。
だめだ、鍵が掛っている。
しまったな、ピッキングツールは今日は持ってない。
ほんとは、いくら俺たちの仕事だからってピッキングは許されてない。
俺は諦めて階段を下りる。三階へ向かう階段に腰掛けて姿を隠し、人が来るのを待つ。
さっき俺がぶつかった子は、ここの患者だ。目が赤かったな、あの子。
薬の内容はあまり見えなかったけれど、たぶん精神科とか神経科だ。
携帯を出して時間を確認。
6時前、診療の受付時間が終わるころかもしれない。
しばらく待ってみたけれど、誰も来ないので建物を出る。
俺は、予備校のとおりに戻って、目ぼしいグループの近くで、耳をそばだててみたりする。
会話の内容は、宿題や勉強、進学率、テレビゲームの攻略。
勉強好きな奴ってのは、頭を使うことしか考えてないんだな。
何グループか回ったが収穫なし。
なかなか、難しい。
声を掛けないと難しいかな。声を掛けるとなると、相手を慎重に選ばなければ。
あたりを物色するが、目ぼしい相手はいない。こういう時は焦っても仕方がない。
とりあえず、今日は情収集ってことで、辺りの学生の会話をチェック。
タカヤさんが事務所に来るころには、俺も戻らなくては。
7時、帰っていく学生のグループにについて電車に乗る。
育ちのよさそうな男子3人。講師の悪口を言っている。笑ってしまいそうになるのを堪える。人の話を盗み聴きするってのはそんなに楽しいものではないが、たまに笑える。
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