迷う心3

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俺は店を出て、時間を見るために携帯を出す。 メールが来てる。 藤原さんからだ。 “明日11時に” タカヤさんとユズルさんにも同時送信されてる。 なんだろう。調査依頼か、三人同時に? 基本は二人だ。 三人ってことはでかい、と言えば・・・俺の前件か? でもあの件はもう警察が捜査に入ってる。違法ドラッグで今さら俺たちを使う筈がない。 さいきん他に何かあったっけ? このまえのリホちゃんのヘルプは片付いてるし。 嫌な予感がする。 これからライブだっていうのに。 取りあえず、“了解”と返信。 メールを削除。 一抹の不安が残るが、今はライブに集中しよう。 歌い終わってフロアに顔を出す。 今日はいくつかのバンドが出てる。バンドとバンドの繋ぎで一旦演奏は止まっている。 アツキさんを発見、すぐには近寄らずに眺めてしまう。 懐かしい光景。 やっぱりあの人はライブハウスが似合う。ネイルサロンよりもホストクラブよりも。 すぐにでもギターを持たせてやりたくなる。 でもアツキさん、老けたな。 って言ったら怒られるだろうけど、ライブハウスにいたころから比べると大人の顔してる。 アツキさんが俺に気が付く。 俺は手を上げて近寄る。 「なに見てたんだ?」 「アツキさんを眺めてたんですよ。」 「はあ?」 「やっぱりライブハウスが似合うなって。」 「そうか?」 「はい、ギター持ってほしくなりました。」 「もう、ずっと弾いてねえよ。」 っていいながらネイリストの癖に、爪はギリギリまで切ってある。 「やっぱお前歌上手いな。」 「そうですか?」 「ああ、いい声してる。」 「ありがとうございます。今日はスターですからね。」 俺は爪を見せる。 「ああ、もっと歌えよ、歌ってるときいい顔してるよ、お前。」 「やめてくださいよ。」 俺は恥ずかしくなる。
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