迷う心4

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マナトはしばらく黙ったままだったけれど、やがてぽつりと漏らした。 「いいんです。わかってて、会わなかったんです。」 「え。」 「あの日帰ってからも何度も連絡がありました。でも、俺・・・。」 「なんで」 「恐かったんです。あの人の口から聴くのが、どうしても嫌で・・・。」 マナトの言葉は弱弱しく、悲壮感が漂う。 どうしよう。 こういう時、どうしたらいいんだ。 「当番も調査も俺が代わるよ。」 「え・・・。」 「おまえはちょっとここを離れてた方がいい。」 「ユズルさん。」 俺はマナトを見て頷く。 「後は俺がやるから、今日はもう帰りな。」 マナトの頭をそっと撫でてやる。 「・・・すみません。」 マナトは小さく呟いた。 「うん、貸しだからな。」 「はい。」 マナトは立ちあがってドアに向かう。 「ああ、そうだ。話したくなったら連絡して来いよ。」 俺は出て行くマナトの背中に声を掛ける。 返事はなかった。 そうとう辛そうだな。 そりゃ、そうだよな。 あんなに幸せそうだったのに。 でも藤原のやつ、いきなり異動なんて・・・。 やっぱり、例のマナトが踏み込んだ一件かな。 責任を取らされたのかも。 今度藤村さんに訊いてみよう。 さて、調査の準備しないと。 予定表は、タカヤが作ってたのをコピーして、修正を入れていく。 さすがタカヤ、よく出来てる。 それから、藤村さんに当番の変更と調査担当の変更を連絡しないと、と思ったところでセキュリティが開く音。 誰だ、こんな時間に? 時刻は21時前、俺はこれを終わらせたら帰るつもりだったが、ドアが開くのを待つ。
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