450人が本棚に入れています
本棚に追加
藤原さんから連絡はない。
あるはずがないんだ。
何を期待してるのか。
事務所に一人でいるのはつらい。
ここで藤原さんと一緒に過ごした。
ここに来たのもあなたの紹介だった。
涙が出そうになる。この前まで、泣けなかったくせに、今度はやたら涙が出る。
グッとこらえる。
いきなりドアが開く。
「あ、いたいた。」
リホちゃんが入って来る。
涙目なのがばれないように、瞬きをする。
「どうしたの?」
「近くまで来たんで、今週マナトさんだったなって寄ってみたんです。」
「わざわざ?」
「そう、わざわざです。で、これ、差し入れです。」
リホちゃんはドーナツの箱を差し出す。
「え・・・差し入れ?」
「はい。マナトさん、前にドーナツが好きだって言ってたでしょう?」
「ああ、そうだっけ。確かに、好きだけど。」
「さいきんマナトさん元気ないんだもん。痩せちゃったし。」
「心配しれくれたんだ。」
リホちゃんは深く頷く。
「駄目ですよ、ちゃんと食べなきゃ。健全な精神は健全な肉体に宿るっていうでしょ。」
「うん、そうらしいね。」
そう言っているうちに、自分で箱を開けている。
「マナトさん、どれがいいですか?どういうのが好きかまできいてなかったから、いろいろ買ってきちゃいました。」
「どれでも好きだよ。リホちゃん先にとりな。」
「駄目ですよ。マナトさんのために買って来たんですから先に取ってください。」
相変わらず元気だなあ、リホちゃん。
「ありがとう。じゃあ遠慮なく。」
俺は箱を覗く。
どれにしよう。食欲はないけれど、食べないと悪いし、この様子だと怒られそうだ。
一番オーソドックスなプレーンのドーナツを取る。
リホちゃんはその間に飲み物を準備してくれる。
「ああ、それが好きなんですね。覚えときます。」
「どれでも好きだよ。ドーナツなら。」
最初のコメントを投稿しよう!