其壱『邂逅』

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「ったく、言いだしっぺが遅刻とはいい度胸してんじゃねぇか」 架純は腕時計を眺めながら、悪態を吐いた。時刻は21時15分になろうとしているところだった。 「駿太の遅刻癖は今に始まったことじゃないじゃん?」 「そうですよ。どうせ『準備に時間がかかった』とか言って、すごい量の荷物を持って来るんじゃないですか?」 イライラしている架純をよそに、藤士朗と奈都子はまるで日常の出来事のように振舞っていた。 春とはいえ4月の夜の風はまだ冷たく、3人は少し体を縮めながら身を寄せた。 「ほら、噂をすれば・・・ですよ」 不意に藤士朗が指した先には、遠目でも分かるぐらいの荷物を抱えた人物の影が大きく左右に揺れながらこちらに向かってきていた。顔を見ることはできなかったが、3人には“あれ”が駿太であることは容易に察することができた。 「ごめんごめん。準備に時間がかかっちゃって」 3人は「ほらね」とお互いに顔を見合わせて、クスッと笑った。それを見て駿太はきょとんとした顔をした。 「ってか、駿太。何この荷物」 「ん?ああコレ?え~っとね」 奈都子に言われた駿太は楽しそうに持ってきたリュックのひとつを開いて見せた。 「懐中電灯に非常食に水に・・・」 「サバイバルか!!」 「ではこの2つのリュックは・・・?」 奈都子の的確な突っ込みと裏腹に、冷静に藤士朗が他のリュックを指差す。 「ん?中身は一緒だよ?どうせ、架純と奈都子は何も持ってこないだろうなぁと思って。はい」 駿太はそう言って架純と奈都子にリュックを1つずつ渡した。 架純はリュックを受け取ると、ここまで準備してくれた駿太に対して「行かないほうがいい」と止めることが出来なくなっていた。 「・・・しゃーねぇ、行くか」 架純は先陣を切って歩き出した。あの森に行けばどういうことになるか分かりきっている。“俺がいれば、あいつらは傷つけられずに済む”はずなんだ。なんとかなる。いや、俺がなんとかするんだ。 架純は1つ深い呼吸をして、“決意”を瞳に宿した。
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