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9月18日(日)続き
「あのね、言っておくけど――」
にょろさんはそう言って、一口コーヒーを飲みました。そのちょっとした瞬間だけでも、冷や汗が流れます。
「これからの戦いで求めているのは何でも出来る人。それぞれが前線に立って、情報調査も出来る。そんなマルチな人材が欲しいの」
「は、はい……」
「あなたは、前線に立てる? そこで何の役に立てる? 足手まといにならない?」
矢継ぎ早の質問に、私はタジタジになってしまいます。はっきり言えば、そんな事出来るとは思えない。
「……無理だと思います。だから、お手伝いだけでもって――」
「余分な戦力はいらないの。盗聴会の事件でもわかったでしょ? 数を不用意に増やせばそこに裏切り者がいるかもしれないって考えなきゃいけない。有能な少数精鋭、それがこれからの戦いで求められるのよ」
……反論出来ない。
もちろん私が裏切ったりするわけないって言いたいけど、過去に前科だってある私を全面的に信用してって言う事も出来ない。
まともに正面も向けない。どうしていいかもわからない。
……わかるのは、私の今の状況が絶望的だという事。私はうつむいて、自分の足を見ていました。
数滴の雫がその足に落ちていき、靴下を濡らします。向かいのにょろさんが、ゆっくりと席を立つのがわかりました。
「――ごめんね。泣いてる所に慰めも出来なくて悪いんだけど、捜査が忙しいから」
にょろさんが立ち去っていく。私はその姿を追う事も出来ずにずっとうつむいていました。
……カチャリ。
目の前のテーブルにカップが置かれる音。見てみると、それは優しそうな湯気を上げるココアでした。
「お金はいらないから、今日はこれでも飲んで帰れ」
マスターの気遣いに、私は大きく泣き崩れました。
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