2章 infinity-zero

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9月19日(月)続き ドアベルがカラカラと心地よい音を立てて、店内に新たな来客の存在を告げる。 重たいドアを開けて店内に入った私に、マスターはいつもと変わらない無表情さで出迎えてくれた。 「いらっしゃい」 今日はどこに座ったらいいんだろう? という疑問を抱いたけど、マスターはすぐにカウンターの前にお水を置いて案内してくれました。 昨日、帰ろうとした私にマスターは声をかけてくれました。 『明日、落ち着いたらもう一度ここに来い。とっておきのコーヒーをご馳走する』 ……昨日はボロボロの状態でココアを頂いた。その前は何もなし。確かに考えてみれば、せっかくいい香りが漂っているはずのコーヒーを飲んでない。 昨日は何も考える気力もなくただ頷いただけでしたが、今になってこれはこれでよかったと思いました。 「おれの自慢のコーヒーだ。お代はいいから、飲んでみろ」 「は、はい。ありがとうございます」 カウンターに出されたのはお洒落なコーヒーカップに注がれたコーヒー。私は素直にお礼を言ってそのカップに口を付けました。 「……おいしい」 嘘なんかは言いません。私の感想に、マスターは満足そうに頷きました。 「そのコーヒーな。挽き方、淹れ方……独学で勉強したんだよ」 ぽつりと呟かれる言葉なのに、やけにはっきりと私の耳に届く。私は、その言葉に耳を傾けながら、二口目のコーヒーを飲みました。
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