2章 infinity-zero

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9月19日(月)続き 「知っての通り、おれは元刑事だ。刑事をやめて始めたカフェだったが、これが面白いんだ」 「……面白い、ですか」 「昔は捜査会議でコーヒーを飲むだけだった。中身はインスタント。豆にこだわり、挽き方にこだわり、淹れ方にもこだわる……そんな事は考えたこともなかった」 マスターが言いたい事はなんとなくわかる。 「それは、マスター自信に才能があったからですよ」 「うまいコーヒーを作る才能か? それは何とも未知数な才能だな」 「正直に言って下さい……私に、才能なんてものがあると思います?」 「それは何の才能かによるけどな、にょろのような刑事になれるか? という質問ならノーだろうな」 「……やっぱり、そうですよね」 「勘違いするな。にょろのような刑事なんて、誰も求めちゃいない。それはにょろが1人いれば十分だ」 みんなが何を求めていたとしても、やっぱりそれに応えられる自信なんてないし、そんな才能が隠れているとも思えません。 「まぁ、そう焦って結論を出す必要なんてないさ。ここにはゆっくりした時間が流れている」 緊張でガチガチだった状況とは今は違う。改めて店内を見れば、そこはすごく居心地の良い場所なんだってわかった。 「……よかったら、明日もここに来てくれないか。たぶん、面白い来客と会えるはずさ」 まだ、マスターは何かを考えているのかな? 面白い来客なんて言われて、私が興味を示さないわけがない。私は「はい」とだけ答えて、目の前のコーヒーの香りを楽しんだ。
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