第1話 ロイヤルスイートな夜【瑞希Ver.】

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「宗助さんと入る方が危険だと思います」 嫌味っぽい冗談を言うと「確かに」と背後から笑い声が響いた。 ちょっと、そこ否定するところだから。 「東京に住んでいる頃、一緒に入りましたね」 「……」 宗助さんの言葉に甘酸っぱい記憶が脳裏に甦る。 あれは宗助さんと婚約を解消した夜だった。 溶けるように甘くて、引き裂かれるように苦しかった、あの夜。 今はもう思い出になった切ない涙の夜。 もう何かを選んで、何かを手放さなくてもいい。 その幸せを宗助さんがくれた。 宗助さんの言葉で記憶が濁流のように押し寄せる。 甘苦しい切ない思いと一緒に。
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